壁の言の葉

unlucky hero your key


 
 日没後の休憩時間。
 ドン・キホーテで糸ようじを買い、颯爽と店を出た。
 と思う。
 この手の店は決してうつむきかげんに利用してはならんのだ。
 胸を張って、大またに、
 けれど決して横柄ではなく。背筋をのばした謙虚さで。
 店を出たすぐ正面には、横断歩道である。
 信号のない、見晴らしいい交差点で。
 その時間、人通りは多く。
 小生は道を渡るべく、すこし小走りになった。
 そのとき、i-PODはTEARS FOR FEARS
 プレイリスト『aruke』に入れたYear Of The Knifeのイントロだ。
 大歓声のなか、ギターがきゅいいんといななき、
 ドラムスティックのカウントで始まる。
 いやでも駆け出したくなるライヴ仕立ての傑作だ。
 おっしゃ。


「きたぜっ」


 とたんにコケた。
 すってんころりん。
 アスファルトの上ででんぐりがえった。
 いまどきそう見られるもんじゃない。
 おとなのでんぐり返しを。
 街なかで。
 見せたくたって、機会がないし。
 機会があっても、拒むだろう。
 んが、
 そこを見せるのが、この闇生というけったいな男なわけで。
 咄嗟に転倒の遠心力を味方につけた。
 パフォーマンスでござる。
 とばかりに流れのままに立ち上がり、一瞬も立ち止らずにそのまま歩き去ってやった。
 コケ逃げと呼んでくれ。
 さて、店に帰還して上着を脱いで見ると、肘をべろりとすりむいている。
 その赤々とした、不覚。
 痛いのは傷ではない。
 コケた原因である。
 白状しよう。そこでコケたのは、実は二度目なのだ。
 状況はまったく同じで。
 店を出て、正面の横断歩道の光景に、
「あ、渡れる」
 と急ぎかけたところである。
 なんと、そこに車道と歩道とを分けるクルマ止めがあるのだよ。
 ふてぶてしくも。
 にがにがしく。
 まがまがしいシロモノが。


 それを見極められなかったあたしのブザマったらないさ。
 一度ならずも二度までも。
 嗚呼、二度までも。
 いつなんどき刺客に襲われても返り討ちにできるような、そんなエロDVD屋であろうと心がけてきたのに、この始末だ。
 しかしながら、なにゆえそんなとこにクルマ止めが、という疑問はただならないわけで。
 俺だけなのか、あそこでコケるのは。
 なのだろう。
 イエス、民主主義。
 それゆえ取り壊されずにあるのだろう。
 なんと罪作りな、いや罰作りな体質なのだろうか。俺ってば。
 そう、体質だ。そうに違いない。
 決して宗教上の理由ではないはずだ。
 が、なにものか大いなる存在に突っ込まれたような気がしないでもない。
「アホか」
 と。
 いまどき「きたぜっ」はないぞと。
 それとも、
 先日コケたおばあさんについて書いたのが、祟ったのだろうか。
 まさかそのおばあさんが祟ってんじゃないだろな。




 その夜、
 布団のなかでふと気が付く。
 絶望の底に、かすかな光明が見えて。
 そいつが自分を照らしてくれたような気がして。
 目の前が開けたような。
「あ、渡れる」
 んなはずはないのだが、
 ともかくも、それを希望のよすがとしてしまえと。
 あさましくもそう解釈していた今日この頃なのであるが。
 光は、単に『思い過ごし』だったと、判明。
 ははん、
 突っころばされたのは、その思い込みへの突っ込みなのだなと。
 天然ボケをやらかしてたと。
 そういうことにしておけと。
 しといてやれと。
 そんなものだ。人生なんざ。
 コケても、コケ逃げすれば良し。
 

 それはどうだか。


 しかしまあ、
 『思い過ごしも恋のうち』(サザンオールスターズ)とも言うではないか。


 言わない?




 マキロンが、やたらキズに沁みるのです。


 ☾☀闇生☆☽