壁の言の葉

unlucky hero your key


 あのね、
 連日ね、
 ぶんにゃりとね、してる。
 底へ落ちるほど、生温かくて、
 真昼の濃霧のように、白くまぶしい。
 もうね、
 なんだろ。
 なんなんだろ。
 けっこうきつい。


 でも、こらえてんだ。
 いまのところ。 


 ほんじゃ、それについて書いてみようと思ったりもするけれど。
 書き出したらあたしのことだ、
 そりゃもう、つらつらと書き連ねるのだけれど。
 気力がもたないっす。
 ベタな、ネガティヴしか吐けまへん。
 すまん。

 
 そんな折、
 「妻が去年死にましてね」
 初対面でいきなりそう切り出された。
 いわずもがなあたしゃエロDVD屋でござる。
 言ったのはそのお客さんでござる。
 帰れば部屋にぽつん、とひとり。
 さびしいと。
 死にたいと。
 この、死ぬまでひとりもんの、
 エロ屋の、
 はしくれの、
 チンカスの、
 その湯気の如きあたくしに訴えるのですな。


 どうすか。
 初対面の、
 しかもエロDVD屋に、
 そこまでカミングアウトせざるをえない孤独ってさ。
 どんな心象風景よ。
 

 さて、
 そんな問いに、いったいどんな顔をしたらいいのだろうか、
 このエロ屋は。
 なんせライヴだ。
 即興だ。
 こっちゃ、前職で「笑顔がきもい」と、
 万座の前でお客にののしられた過去をもつ、へなちょこ店員である。
 その奥さんは一切のポルノを許さなかったのだそうな。
 頑として。
 んが、それも愛。
 いじらしいじゃないの。


 今や息子たちも独立。
 家を出て、
 ひとりぽっち。
 そのまぎらせようもない、孤独のシコリ。
 のっぴきならない。
 在庫処分のVHSを手にとって、
 「これを観ても、妻は、あなた元気になったねと笑ってくれるだろうか」
 そう言って笑うのである。
 なけなしの冗談なのでござろう。
 こちらの笑いを待ちながら。
 そんな笑顔なんざ、正視に堪えないわけで。
 もちまえのへなちょこ笑顔を返すのにも、忍びなく。
 

 不肖闇生、その孤独を、知ったかぶりにはできない。
 しない。
 けれど、
 それは、孤独ではなかったときがあったればこそ、っす。
 それゆえに際立つひとりぽっち、っす。
 その際立ちすらなしに、ご臨終を迎える人だって世の中にはあるんだいっ。
 ということを噛み締めることもまた、愛する故人への追悼になり。
 ひいては、明日への推進力にもなり。


 家を出た息子たちよ、
 何してんだっつの。
 と、
 思いつつ、耳が痛いわけで。。。




 ☾☀闇生☆☽