壁の言の葉

unlucky hero your key


 たぶん『癖』のようになっているのだと思うのだ。


「お箸、お付けしましょうか」
 そう訊かれると、あたしゃ必ず、
「結構です」
 そう答える。
 コンビニでのやりとりである。
 むろん手で食うわけではない。
 箸はいつも携帯しているし、自宅で食べるのならば専用のそれがある。
 いちいちゴミを持ち帰るような真似、するもんか。…なのである。
 にもかかわらず、帰宅してレジ袋の中を確認すると、あろうことか割り箸が入っているのだ。
 楊枝付きの。
 これがまた、ままあることなので。
 その都度、卓上のペンたてに突っ込んでいたのだが、いまやあふれかえっている次第である。
 どうしよう。
 これがみんなバレンタインのチョコだったら♪


 店員がレジ袋に商品を詰めるのをその都度監視していればいいのだが、こちらが小銭ピックアップに手間取っているうちに、やられてしまうのだ。こっそりと。
 いや、違うな。
 これはきっとこちらの「結構です」を「Yes」とか「Good」の意味にとられているのではないか。
「結構なお手前で」
 のあれだ。
 ならば悪いのはこちらだろうが。
 そうに違いない、
 思いなおして、次からはキッパリと、
「いりません」
 そうのたまうことに決めた。
 あまりに偉そうで、もうしわけない気持ちにもなるのだが。
 すまん。
 キッパリですまん、というこちらの隠れ謙虚もなんのその。
 哀しいかな、また入れられてしまう。


 ゆるゆるか、俺。


 こうなったらもう、ジェスチャー付きだ。
 ニホンゴデキマセーン。
「STOP」
 とばかりに、
 あるいは「あっと驚く為五郎」のポーズとでも言おうか、
 はたまた大仏さまと言おうか、
 ともかく、片方の手のひらで制した上で断ってみた。
 んが、
 やっぱり駄目なのだ。
 どうせ外国人以下なのだ、俺の意思伝達能力は。
 これはあれだな。
 試されているのだ。
「買ったおぼえにないものが入ってました」
 とかなんとか言ってまとめて返しに行ったら、おでんでもサービスしてくれるとか。
 金の斧、銀の斧のような展開で…。
 正直、書きながらむなしい。


 割り箸の用不用を訊き、
 んでもって箸をレジ袋に入れる。


 この動作が店員の体にすりこまれてしまうほどに、箸を所望される方々が多いのだろう。
 断る人なんか、ほとんどいないのだろう。
 あたしの場合、今のところコンビニではレジ袋をもらうが、週末の買出しに利用するスーパーでは断っている。
 デイバッグを背負って行って、そいつにごっちゃりと詰め込んでくるのだ。
 堅苦しいエコだ、エロだの以前に、両手があくので快適この上ないのだ。
 そのままトイレで用をたすこともできるし、君を抱きしめることだってできる。
 唐突にパラパラだって、
 向かいのビルから、会議中のアイツに手旗信号でメッセージかますことだってできる。
 道草し放題だ。
 ちなみにこのスーパーの場合、レジ袋を拒む人は、その旨を表明するカードをあらかじめカゴに入れておく決まりだ。
 でも、それでも、入れられてしまう。
 店員の作業が機械化してしまっているからだ。
 レジ袋の場合はさすがに目立つので、その場でお返しするが、やるせない。
 あたしの気持ちを汲んでくれ、と。
 手放しのあたしが、手放しで帰ろうというのだから。
 振り返らない覚悟なのだから。



 割り箸。
 土にうめたらまた木になる箸の研究なんてないのかな。
 無いの知ってていってますけど。



 ☾☀闇生☆☽