壁の言の葉

unlucky hero your key


 そういえば元旦にひいたおみくじは『大吉』。
 郷里の神社で引き当てて、めずらしいからと、境内の柵に結びつけてきたのだった。
 柵は、それ専用の鳥かご型。
 樹木をくじから守るために、最近になって設けられたのだという。
 せっかちな父はすでに海を見に裏手の砂浜へむかっており、あたしゃひとり駆けもどってわざわざそうした。
 大吉のときくらいはせめて作法どおりにしたいと。
 しかし今にして思えば、なにもそこまで幸運に餓えることはないよなと。
 必死か。
 たしかに、当てた瞬間に驚きはなかった。
 くじの結果にリアクションできるのは、『おみくじ』という伝統的なフィクション性を愉しめるゆとりあってこそ。
 んが、その時の俺はさびしく笑っていたと思う。
 にぎりっ屁のような皮肉をかまされて。
 なにクソの臭いを嗅ぎながら。


 連日、えらく落ちそうな気配がしている。
 とはいえ誰かと他愛もなくダベるだけで浮かばれるような、吹けば飛ぶような屁みたいなものだが。
 屁をこいたってひとりだ。
 だから誰かに迷惑をかけてしまう心配は、ものの見事にない。
 それでもそれなりに踏みとどまろうとはしている。
 ともかくも音楽にすがって。


 『aruke』


 歩け。わがi-Podにはそんなプレイリストがある。
 前進をうながすイメージと、実際にウォーキングに適した曲を集めたものだ。
 Eelsの『Fresh』とか、
 Iceの『spirit』とか、
 Jamiroquaiの『Blow your mind』、
 El Presidente
 Telefon Tel Avivも。
 けれど、そういうときに限ってなぜかRadioheadばっかかかるんだな。
 繰り返しシャッフルしてもまた出てくる。
 おまえら、もういいっつの。
 もうね、凹みに拍車がかかって仕方がないのよ。
 そもそもどうしてRadioheadを『aruke』に入れたのよ。
 そんな自分に腹がたってしまうのだが、きっと元気ヴァージョンの俺が、迷わずそう選択したに違いないのだ。
 まったく、価値観の合わん奴っ。
 なにかと交際の条件に『価値観』なるものが取りざたされるが、自分で自分が手に負えないんじゃ話にならない。
 価値観なんぞ固定して、自己暗示するもんか。
 同じ奴なんぞ、いてたまるか。
 そんな価値観を心がけていたもんだから、案の定である。
 やるな、俺。


 価値観は、違いを味わうためにあるんだもんね。


 試みにつぶやいてもみたが、この際なぐさめにもなりゃしない。
 こうなったらもう、あれだ。
 せめて楽しかったことを反芻しようじゃないか。
 そう思って記憶のくじ箱に、負えないその手を突き入れた。
 雲をつかむおもいで探っていたら、藁をつかんで、あにはからんや。
 うっかり先の『大吉』の記憶をひいたのござる。
 とまあ、そんな顛末だ。


 いかん、いかん。
 愉しもう。


 いっそ闇生はぴちぴちの女子高生でした。
 おっさんのふりしてました、などとキャラ設定を変えようかとも思ったが、哀しいかな『ぴちぴち』の時点でアウトである。
 一発レッドだ。
 なんだ『ぴちぴち』って。
 そこにぱんと張った肉質を求めていた時代があったのか。
 あったのだ。
 肉質優先の時代が。
 ハンニバルな美意識が。
 くびれも、美脚も、胸の渓谷も二の次で、猫も杓子もぴちぴちだなんて。
 かといって『むちむち』の女子高生じゃ、淫靡と若さがアンバランスではないか。
 それもまたよろし、かもしれんが。
 『ぷりぷり』の女子高生。
 ではツンデレとまぎらわしい。
 『カチンコチン』の。
 『ぐにょんぐにょん』の。
 『じょりじょり』の。
 『りょみょりょみょ』の。
 『のりていまは、せたらていまは』の。
 『にいにい』の。
 『幕末』の。
 『色即是空』の。





 な。

 


 じゃあおっさんのような女子高生ってのはどうだ。
 なにが『じゃあ』なんだか。
 そのうえ『どうだ』っつわれても。
 いよいよもって、なまはげめいてきましたが。
 ならば酔った勢いで不謹慎なことをしでかしそうですが。
 ということで例のなまはげ事件にもっていく。
 話題としてもう遅いが、流れとしてそうなっちゃったんだ。
 むろん事件は噴飯ものだ。
 がそれはそれとして、あたしゃつげ義春の漫画を連想したのだ。
 『ゲンセンカン主人』
 混浴の湯殿で女を襲うと、
「へやで」
 と逆に誘われてそこに忍んでゆく、男。彼がつけた天狗の面が印象的だった。
 それと諸星大二郎の『妖怪ハンター』の「産女の来る夜」。
 あのエロティックな神事もなまはげめいたものだ。


 仮面をかぶると別人格になる。


 いや、煩悩を曝す。
 野生を丸出しにする。
 あるいは丸出しありきで、方便としてそれをまとう。
 おや、
 またもや『箱男』に関連させそうな雲行きではないか。
 まあいい。
 仮面を得ることで解放しようっていうのは、日常でもよくあることなのだ。
 あなただって立体マスクをするだけで、プチ箱男気分が味わえる。
 古来、戦士は戦いの前に化粧をして、神がかりになったものだし。
 かく云う闇生。
 キャラ設定がどうしたこうしたと述べてきたが、いまさらそんな仮面をこしらえたところで、どうしようもないことだけはわかっている。
 コンビニでもらった鬼の面をつけたところで、ゲンセンカン主人にはなれやしない。
 身の丈を知ってしまったのだ。
 んな奴が『女子高生』を連発してすいませんでしたな。
 ほんとは女子高生そのものには興味がない。
 用もないし。
 仕方もない。

 
 あなたの想像力と感受性にこそ、用がある。
 おそらくはそこが『大吉』の在りかであり、わたしの居場所なのだ。
 

 
 たのむ、
 そこに居させてくれ。



 ☾☀闇生☆☽
 P.S.
 いや、
 あえてあのコンビニのチープな鬼の面でするってのは、どうすか。
 家族計画
 エロと笑いと恐怖は、つねに背中合わせの三つ巴なのでございます。


 かしこ。