雨の日のユニクロでのことである。
棚を眺めていた。
これといった貪欲な購買意欲も無く、
ぽかんとした気持ちであの色見本のような棚の配色と対峙していた。
言わずもがな、ひとりである。
いまにして思えば、
そのときたまたま聴いていたCharaがくれたぽかんだった。
『話して尊いその未来のことを』
とはいえCharaを憎むわけにもいかず。
そうしたところで届きゃしない、この気持ち。
ようするに、めろめろだ。
あたしのぽかんは、めろめろに浸されてしまったのだ。
あろうことか、背後から抱きしめられたのである。
ぎゅぅぅうっ、と。
不覚。
ひとりもんの、
しがない新人おっさんの日常でありえるだろうか。こんなこと。
コンビニで釣銭を受け取るときに、たまたまバイトの女の子の指が触れてしまっただけで、たかだかそれだけでときめいちゃうような哀しい奴だ。
そのうえ自慢じゃないがこの男は結構イケてない。
それがうしろからぎゅぅぅうっ、だもの。
ばかりか、そいつったら顔を押し付けてくる。
ぐりぐり。
ぐりぐり。
そりゃあ、うろたえるさ。
なんせ「もう離さない」てな熱いテンションよ。
そんなのっぴきならないものを、
孤独の隙をついてねじ込んでくんのよ。
あたしのなかに。
そのぉ、なんて言うか…、
あたくしのぉ、
うしろのぉ、
谷間。
ようするにおけつ。
そこにうずめてくるんだな。顔を。
あらがえますかっての。
なにごとのおはしますかはしらねども…
ともかくも、
あたしゃ勇を鼓して振り返ったのだ。
とそこに三歳くらいの男の子。
抱っこをせがんで両手を差しのべてくるではないか。
それが、こちらの顔を確かめるやいなや、仰天。
今度はその子がぽかんとするはめにあいなったのであーる。
キミにこのCharaを分けてあげよう。
満面の笑みがまるでスイッチを切ったみたいにしぼんでいく。
ママが気づいて駆けてきた。
「こらぁっ、もお」
わびるママの背後から、パパもやってきた。
「ん? どうした?」
なるほど背丈や服装が似ているといえば似ている。
しかしながら、このパパはイケてるおっさんである。
恥ずかしそうにわびるママとは対照的に、事情を知らないパパはそのイケてる眼差しでもって怪訝そうにあたしを見るのだった。
いつもぐりぐりされてるくせに。
にしても、
我がおけつに残されたほのほのとしたもの。
そこがなんだかカタジケナイわけで…。
実は似たようなことが以前にもある。
レンタルビデオ店に勤めていたときだ。
会員ママの応対をしていたところ、そのお子さんに不意に手をつながれてしまった。
ぎゅっと、ではない。
アマ噛み、ならぬアマ掴みで。
体温をすこしずつにじませるような。
ママと正対していたものだから、自然、その子と俺は並んでママと対峙することになるわけで。
構図的にはこっちが親子。
えへん。
2対1で親子チームの勝ち。
ママったら、吹いてました。
このへなちょこを、まんまとめろめろにしてのけたあのぬくもり達は、親にしてみれば絶対的なものなのでしょう。
だからこそ、
抱きしめたつもりが、その実、抱きしめられていることもあるわけで。
そのへんのとこ、
Charaってば、ちょいちょい歌ってくれたり。
くれなかったり。
☾☀闇生☆☽