壁の言の葉

unlucky hero your key

歩く。25

 大椚をぬけて野田尻をめざす。
 道は中央道を右に見て西へ。
 その中央道沿いに石碑。


f:id:Yamio:20180815044653j:plain
長峰砦跡。


 中央道の北側も含んだこのあたりに砦があったのだそう。
 武田信玄の家臣で、上野原の加藤丹後守の出城として機能していたと。
 いまは何も残っておりませんと。


 遠雷が強まっている。
 高速はさすがに交通量が多く、出口から車列が徐行しつつ流れている。
 砦跡を眺めるあたしを、ドライバーたちが「何やってんだ?」な面持ちで見ていく。
 はい。バカやってるのです。


f:id:Yamio:20180815045215j:plain
新栗原橋たもとの道標。


 跨道橋のたもとに道標があり、これより野田尻宿。


f:id:Yamio:20180815045437j:plain
新栗原橋から見た中央道。


 跨道橋は途中から様相が変わる。


f:id:Yamio:20180815050100j:plain
新栗原橋の北側。


 二部構成の橋。
 こっちの古いのが元祖栗原橋なのだろうか。
 それはともかく遠雷が凄みを増している。
 画面奥手の雲の感じ。
 標高の高いところではすでに降っているような気配。


f:id:Yamio:20180815050500j:plain
野田尻宿 道標。


 この林道をぬけたところに集落があり、
 正面に扇山と権現山の山容をみすえて直進する。
 山にかぶさる雷雲は重々しく、雷鳴は山肌をこだまして轟いている。
 あそこに向かって行くのか。
 やめたほうがよくないか。
 デイパックにはまだ凍らせた水(要するに氷なのだが……)とポカリがあるが、路傍の自販機にひかれ、ひとまず水分補給とあいなった。
 普段はめったに飲まないコーラ系が無性に飲みたかったが、炭酸系はドデカミンしかなく妥協してそれをいただく。
 スポーツドリンクを一本、デイパックのサイドポケットに仕込んでおく。


 さあ、歩き出そうとしたそのとき。
 山のほうから雨のまじりの突風が、落葉やらなんやらを吹き散らしながら襲ってきた。
 こりゃかなわんと。
 たまらず目の前の納屋に飛び込んだ次第。
 他人の敷地とは認識しているのだが、これはもう緊急避難に近い。


 どうせ夕立で、通り雨だ。
 そう高をくくったが、スマホによると18時まで90%の雨予報。
 えっ。いつの間に。
 ともかく雨をしのげる場所を探したい。
 マップでみると、さきほどの自販機の背後に『いやしファームカフェ』なるお店があることになっている。
 けれど、外観からはそこがお店であるとは見えないし、だいいち看板が出ていないのだ。
 まいった。
 古道を通るのは自家用車ばかり。
 さすがに流しのタクシーが通るわけもなく。
 この納屋の所有者には申し訳ないが、せめて雨脚が弱まるまで屋根をお借りすることに決めた。
 

f:id:Yamio:20180815052732j:plain
野田宿 雨宿りの納屋から。


 するとね、
 この写真の奥のお宅のなかからあたしの様子が見えたのだろう。雨のなか、おばあさんが傘をさして出てきたのである。
 もう一方の手には閉じた傘をもって。
 
「あんまりよくない傘だけど、いらないやつだから。これあげる。」

 実はデイパックのなかには折り畳み傘がある。
 けれど傘をさして強行できるような天候でも道のりでもないと。
 なにより、雨よりも落雷がこわいので使わないでいたのであーる。
 それはいいだせず、ご厚意に感謝してその傘をいただいた。

「どこまで行くの?」

 鳥沢まで。
 という言葉を背中でききながら、もうおばあさんは自宅へ戻りかけている。
 この、やさしさをあげっぱなしにするというのは、日本人だよね。
 ありがたい。
 感謝の言葉を待とうとすらしない。


 けど、こまった。
 傘をくれたということは、雨宿りを続行しにくい状況だ。
 居づらい。
 雷鳴が遠のき、雨脚が幾分弱まったのを見計らって道に出た。
 


 つづく。


 ☾☀闇生★☽