大椚をぬけて野田尻をめざす。
道は中央道を右に見て西へ。
その中央道沿いに石碑。
中央道の北側も含んだこのあたりに砦があったのだそう。
武田信玄の家臣で、上野原の加藤丹後守の出城として機能していたと。
いまは何も残っておりませんと。
遠雷が強まっている。
高速はさすがに交通量が多く、出口から車列が徐行しつつ流れている。
砦跡を眺めるあたしを、ドライバーたちが「何やってんだ?」な面持ちで見ていく。
はい。バカやってるのです。
跨道橋のたもとに道標があり、これより野田尻宿。
跨道橋は途中から様相が変わる。
二部構成の橋。
こっちの古いのが元祖栗原橋なのだろうか。
それはともかく遠雷が凄みを増している。
画面奥手の雲の感じ。
標高の高いところではすでに降っているような気配。
この林道をぬけたところに集落があり、
正面に扇山と権現山の山容をみすえて直進する。
山にかぶさる雷雲は重々しく、雷鳴は山肌をこだまして轟いている。
あそこに向かって行くのか。
やめたほうがよくないか。
デイパックにはまだ凍らせた水(要するに氷なのだが……)とポカリがあるが、路傍の自販機にひかれ、ひとまず水分補給とあいなった。
普段はめったに飲まないコーラ系が無性に飲みたかったが、炭酸系はドデカミンしかなく妥協してそれをいただく。
スポーツドリンクを一本、デイパックのサイドポケットに仕込んでおく。
さあ、歩き出そうとしたそのとき。
山のほうから雨のまじりの突風が、落葉やらなんやらを吹き散らしながら襲ってきた。
こりゃかなわんと。
たまらず目の前の納屋に飛び込んだ次第。
他人の敷地とは認識しているのだが、これはもう緊急避難に近い。
どうせ夕立で、通り雨だ。
そう高をくくったが、スマホによると18時まで90%の雨予報。
えっ。いつの間に。
ともかく雨をしのげる場所を探したい。
マップでみると、さきほどの自販機の背後に『いやしファームカフェ』なるお店があることになっている。
けれど、外観からはそこがお店であるとは見えないし、だいいち看板が出ていないのだ。
まいった。
古道を通るのは自家用車ばかり。
さすがに流しのタクシーが通るわけもなく。
この納屋の所有者には申し訳ないが、せめて雨脚が弱まるまで屋根をお借りすることに決めた。
するとね、
この写真の奥のお宅のなかからあたしの様子が見えたのだろう。雨のなか、おばあさんが傘をさして出てきたのである。
もう一方の手には閉じた傘をもって。
「あんまりよくない傘だけど、いらないやつだから。これあげる。」
実はデイパックのなかには折り畳み傘がある。
けれど傘をさして強行できるような天候でも道のりでもないと。
なにより、雨よりも落雷がこわいので使わないでいたのであーる。
それはいいだせず、ご厚意に感謝してその傘をいただいた。
「どこまで行くの?」
鳥沢まで。
という言葉を背中でききながら、もうおばあさんは自宅へ戻りかけている。
この、やさしさをあげっぱなしにするというのは、日本人だよね。
ありがたい。
感謝の言葉を待とうとすらしない。
けど、こまった。
傘をくれたということは、雨宿りを続行しにくい状況だ。
居づらい。
雷鳴が遠のき、雨脚が幾分弱まったのを見計らって道に出た。
つづく。
☾☀闇生★☽