壁の言の葉

unlucky hero your key

『アラビアの道』~『日本の考古』東京国立博物館。

 有休三日目。
 『アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝』表慶館
 『日本の考古 発掘された日本の歴史』平成館。


 www.tnm.jp



 いやあああ、参りました。
 なめてました。トーハク(東京国立博物館)。
 あまりに広大だし、とてもとても一日では見切れない。
 しかもさすが国立だ。
 立川の手前じゃないよ。
 コクリツよ。
 教科書に載っていた国宝だの重要文化財がごろごろあるんだもの。


 知ってのとおり上野公園界隈には動物園、美術館、博物館が集中しており、
 ましてやいわゆる「おのぼりさん」たちにとっての東京の玄関口にあたるのがこの上野だからして、週末の人出は凄まじい。
 うんざりする。
 かくいうあたしも未だにおのぼりさんのままなのではあるのだがあ。
 生来の人ごみ嫌いのあたしとしては特に避けてきた地域でもあったのね。
 この日もそう。
 公園口の改札付近は午前中からすでにごったがえしていたし、誘導する駅員のアナウンスもただならない。
 構内の女子トイレには長蛇の列ができていて、駅前の交叉点は公園側に横断しようと信号を待つ人垣で分厚く縁取られていた。
 怯んだね。
 きびすを返した。
 構内で昼飯を済ませちまおうと徘徊しながら反省した。
 せめて週末は避けるべきでしょうと。
 かといって桜がほころぶこの時期にいったいどこに静謐なる文化スポットがあるというのか。
 などと反省を反省しなおした。
 なにやってんだか、おれ。
 腹を決めて改札を出る。
 ところがいざトーハクを目指すと、チケット売り場に人だかりはあるものの、順番待ちを強いられるほどの混雑でもないのだな。


 綜合文化展 おっさん一枚 620円。


 券売機も多言語対応でスムーズである。
 中庭にはやきそばの屋台が一台だけあった。
 案内によれば施設内にはレストランがあるようだし、トイレも多い。
 ベンチもそこかしこにあるので休憩場所には事欠かない模様。


 さて『Roads of Arabia』と題されたアラビア半島の歴史をたどる企画。
 想像力を起動させてから足を踏み入れる。
 まずは時代的にいちばんふる~いとこからスタートだ。
 なんかごっついオブジェがお出迎え。
 あ、ども。
 解説を見る。


 「前期旧石器時代 100万年以上前」


 だってさ。
 へええええ。


 「新石器時代 紀元前6000年頃」


 ほおおおお。
 と、係員のおねえさんの視線を意識して、知ったようなリアクションをとってみるものの、なにがわかるというのだ。
 いきなりだもの。
 わかるわけがない。
 紀元前である。
 釈迦もキリストもまだお出ましになっていない。
 それでも彼らは何者かを祀り、何ごとかを願い、祈り、生活の痕跡を残しているのだ。
 わけいってもわけいっても青い山、じゃないが、館内を辿れども辿れども紀元前である。
 どこまでつづくんだ紀元前。
 考えれば考えた以上にとほうもなく、至るところに人の痕跡だ。
 あっちにもこっちにも人の跡。
 人、
 人、
 人。
 そりゃそうだろ。それを集めたんだから。
 ははん。
 さてはウジャウジャ居やがったのだな。人め。
 それだけはわかった。


 おい、紀元前っ。
 よくやった。


 と褒めてやりたい。
 不思議なものでこれだけスケールが深遠だと順路を進めて『紀元前2000年頃』などと書かれているのに出くわすと、なぜか新しく感じてしまう。
 その間4000年もすっとばされるものだから、想像力は置いてけぼりをくらっているのだが。くらいつつも細工がレベルアップしてくるので親近感を抱く。
 近づいてくるほどにピントが少しずつあってきて鮮明になってくる感触だ。


 ほどよくベンチが準備されているので、腰を下ろしてひと息ついた。
 美術館はこの小休止が大切であると、あたしにもやっとわかってきた。
 ベンチだかソファだかが必ずあるものね。
 活用しましょう。
 情報過多だと頭も疲れるし、インターバルに足腰を休めながらでないと後半戦に支障をきたすと判断。


 見渡す。


 外国人多し。
 解説文も英語、中国語、韓国語が併記されているので、彼らも楽しめることでしょう。
 スマホ撮影多し。
 撮ってどうすんでしょうか。
 なかには撮影禁止のマークを掲示した展示物もあるのだが、あれは要はフラッシュが駄目ということなのだろうか。
 強い光が保存状態の維持に支障をきたすと。
 まさか著作権的なことではないだろう。紀元前だぞ。


 昨日の『香合展』に関連するが、香炉がありますな。紀元前のアラビアにも。
 香料の貿易が盛んだったという解説もあった。
 香りの文化というのは、外せない視点かもしれない。
 香料の運搬に容器が必要となり、それが装飾され、輸送のためにラクダなどの家畜が盛んになり、試行錯誤が繰り返されて技術がすすむ。
 その交易の要となったオアシス都市をめぐって覇権争いがあり、あえなく滅亡した都市もあり。
 メッカ巡礼にまつわる文化も興り。
 宗教と貿易、王権という人の流れで半島の歴史をとらえるのが、この企画展の楽しみ方なのだと思う。


 後半、葬送用の金のマスクと手袋が展示されてあった。
 それがまた異様に小さい。
 解説をみると、なんと6歳の少女の墓から出土したものだという。
 王族の子なのだろうが、子を思う親の痛みが伝わってきて、しばし立ちすくんだ。


 とまあ、贅沢でお腹いっぱいになる展示内容でござった。
 それで、食事でもしようと施設内をめぐるうちに『日本の考古』展が開催されていることを知るのだな。
 考古から考古へ。
 これは同時開催ならではのものではないかと受け取った。
 「一方、そのころ日本では」
 というやつである。


 こちらもすごい。
 ボリューミー。
 さすが国立博物館という内容で、国宝、重要文化財がわんさかある。
 だもんで早々にこの日はトーハクだけで終えることに決めた。
 昼飯も抜く。
 まずは教科書でおなじみの遮光器土偶のモノホンがある。
 ボリューミー。
 みたことある埴輪のオリジナルがあっちにもこっちにも。
 この楽しさはアラビア展からハシゴしてこそだ。


 巧みな英語で外国人観光客の集団を案内している女性に遭遇した。
 スタッフのようでもなく、民間のツアーだろうか。
 それにしてはイデタチが普通だ。
 はっさくらしき果物を入れたコンビニ袋を手に提げていた。
 なんかスイッチが入っちゃっただけの親切な人なのだろうか。
 例のオ、モ、テ、ナ、シ運動か?
 歩く速度がはやい。
 案内の仕方もシラミつぶしに網羅していくのではなく、時代ごとにポイントをしぼって解説していくのである。
 次はこっちよ。
 その次はあっちね、といった具合に。
 なるほど、ダイジェストでいかないととても回り切れない内容なのだ。




 『アラビアの道』は会期延長されて5月13日まで。
 あたしが行ったのは土曜の昼過ぎ。
 すいているわけではないが、混雑でゆっくり見られないということでもない。
 ただし駅前と公園は大混雑。
 桜がいい感じですからね。みなさんストロング系を片手にブルーシート敷いて盛りあがってます。


 追伸。
 16時頃退館してきたが、すれ違いに入っていく外国人たちがいた。
 こんな時間に来てもたいして見られないだろうに、と思ったが金・土は21時までだという。
 いまチラシを見なおして知った。
 なんだ。もっとゆっくりできたのかよ。
 昼飯ぬくことなかったな。





 ☾☀闇生★☽