壁の言の葉

unlucky hero your key

食の幻術。

 あれ?
 こんな味だったっけ。
 

 と、ふと思ふ。
 自炊へのモチベーションがどぼーんと落ち切った休日のことだ。
 近所の有名ファストフード店でから揚げ定食を食していた。
 券売機に硬貨を投入し、
 メニュー一覧からカテゴリー名『定食』を選んだ。
 『から揚げ定食』と命名されたサンプル写真をチョイスして発券されたそれを店員さんに渡したからこそ、ありがたくも食にありつけている。


 かたじけなし。


 あたしゃ一点の疑念も抱かずに、皿に盛られたその衣の物体をから揚げと思い込んで頬張っている。
 見渡せば、カウンターは休日の朝からファストフードで腹を満たそうという人たちで一杯だ。
 おっさんもおねーさんもおにーさんも、その表情のことごとくが無防備な『素』でござる。
 なるよねー、素。
 で見渡しつつ咀嚼して、思ったのだな。


 てか、
 から揚げっていうか、から揚げっぽい何かって感じい。


 実感。なんちゃってから揚げ。
 

 から揚げだけではない。
 チキン何たら定食だろうが、牛うんたら丼だろうが、なんかこういうところで食べるものってみんな嘘っぽかないかと。
 いまさらながら思っちまった次第。
 とりあえず本物の『つもり』で腹を満たしている感。
 いや所詮はファストフードなんてそんなものだろう。
 それでこそのファストフードだろう。
 有体は一膳めし屋である。
 市井の労務者たちが肉体労働の合間合間に立ち食いでとりあえず空腹を満たそうじゃないかという、そういうノリから始まった。
 とあたしゃ決めつけているのだが。
 であるからして本格的な料理を期待するのもどうなんだ、と思ふ。


 ちゃちゃっと食ったら楊枝をくわえたその背中でごっつあんと出ていく風情。
 そう、ルーツは立ち喰い屋にあり。


 それはいい。
 それはいい。
 けれども、この肉とか野菜といった素材ものものからの『なんちゃって感』というのは、どーよ。
 いくら一膳めし屋とはいえ。
 いやいやいやいや、
 それを言っちゃあおしめーよといったところかもしれない。
 そこ気づいちゃダメでしょう。


 フーゾクに恋愛を期待しなさんな、といったところでしょうか。


 上京したばかりのころ、この手のお店は吉野家とあと何社かだけだったと思う。
 その吉野家も朝定食は焼き魚と納豆の二種類だけで、女性客などめったに見かけなかった。
 ああいういわばやっつけの飯屋で飯を食うことに、まだ羞恥がともなっていた時代だったと思うのだ。
 それがいまや当たり前になっているではないの。
 

 いやなに、女性が外食していることにいちゃもんをつけているのではないのね。
 家族連れが休日の食事をそんなお店のボックス席で過ごすほどいまでは認知されているのだもの。
 けど、このなんちゃって肉までがこうも日常にあふれかえっているとなると、なんだかなあと。
 思いません?
 このところ急激に店舗を増やしている海鮮丼屋チェーンにも、思ふ。
 ほんとにあんなに海にいるのかね? 魚介類。
 漁獲量とつじつまあってんのかね、ほんとに。
 あれなんで調理の手元を隠してんのかね。



 
 そんなこんなでせっかくの一食の楽しみを、損したような余韻がじわじわと。 
 スーパーで肉買って、ヘタでも自分でなんか作れば良かったなあと。



 それにしても外食はどこも肉、肉、肉ですな。
 脂、脂、脂ですわ。 
 おっさんたるもの、そこはひとつ羞恥心をかきたてて自制したいものですな。
 その一食。なんちゃって肉で済ますくらいなら、ちゃっんとした肉にしましょうよ。
 仮に、ちゃんとした肉にするまでもないのなら、そのなんちゃって肉も必要ないでしょう。





 ☾☀闇生★☽