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嫉妬 / shit。

 いま、幹線道路がらみの交差点規制現場についている。
 この日ご一緒した同僚のモデルガンマニアSさんは、先週10勤したと方々で自慢していたらしい。
 稼ぐ奴が嫌われるのは世の常だろか。


「なによあのコばっかりモテちゃってさ」


 この日の現場はさながら老ホステスたちによるナンバーワン嬢いじめの場と化したのであーる。
 ま、出来る奴ならそこまでされないんだけどね。
 せいぜい陰口をたたかれるくらいで。
 基本的なことがほとんど出来てないのに、稼いでいると。
 みんなによってたかってフォローされたあげくの稼ぎなのに、自慢していると。
 来た仕事を断わらず、ただ眠いの我慢してつっ立ってるだけなのに。
 行く先々で現場(先方)さんからNGを喰らっているのに。
 足引っ張ってるのに。
 とまあ、醜い話ですが、我々はそんなことでぷちぷちいがみ合っているわけ。
 んで、スイッチが入っちゃったんですな。みんなの胸の奥にある黒い黒いスイッチが。


 じゃ交差点、仕切って。


 この「じゃ」は「そんなに仕事ができるなら」の意である。
 職長は彼に片交の交差点をまかせることにしたのであーる。
 その瞬間、だれかがおもしろがって「ひゃっはー」と嗤った。


 ぽちっとな。


 隊員各人の能力に見合ったポジションを探し、与えるのが職長の仕事のひとつだろう。 
 それが仮に使えない奴ならば、みんなでフォローし合えるフォーメーションを組むと。
 しかしそれはあくまで理想論だ。
 ええかっこしーだ。
 限度はあるのだ。
 完全にフォローできてしまえるなら、そもそもそのポジションは要らないわけだから。
 人数減らせるわけだから。
 先方さんだって無駄な人件費はなるだけ控えたい。
 それでも、出来るお人よしが無理をしてしかたなく彼らをフォローすると。
 ついしてしまうと。
 そんなヒトさまの無理に支えられて、彼らは何年もてーへんで鼻毛をのばしている。
 あいつらのせいで俺はこんなに汗かいてんのに、なんであいつらはただノホホンと地蔵のように立ってるだけなんだろかと。
 フォローされていることすら気づかないんだろかと。
 同じ単価なんだろかと。
 そこに思い至ってしまう種類の人たちがいて。
 そうなると、スイッチのあそびは無くなってしまう。
 イイ人で居ることが、バカらしくなる。


 この夜、ガンマニアSは連投疲れでハイになっていた。
 ろれつも回らないのにおしゃべりをつづけ、ひとりでウケていた。
 休憩中、詰所で仮眠するあたしに向かっても、のべつまくなく喋りつづけ、そして笑っていた。
 いっぱいひっかけてんのか、
 妙なドラッグでもやってんのか、
 それともそういうビョーキなのか。
 無線でひと晩じゅう教えられたり、指摘されたり、皮肉られたり、罵られていたが、きっと半分も理解できなかっただろう。
 ただいつも彼が負け惜しみでかます「言い訳」はあまり聞かれなかった。
 てか言い訳もろれつが、はらほろひれはれ〜なのである。
 そのポジションをこなしながら言い訳や無駄話ができるようになったなら、たいしたもん。
 ひとつ成長したということ。
 誘導にゆとりがもてるようになったあかし。
 視野もひろがる。


 ただね、実はそのいじめ(てか、しごき)も、効能が見込まれてのことでね。
 ガンマニアSの片交にはそれまで「思いやり」が欠けていたの。
 自分側の流れしか考えていない。
 自己中。
 自分が待たせている車のことしか考えず、反対側の状況や相方が待たせている車のことを想像しない。
 だから強気で車をとめることができない。
 あからさまに苛立ちをみせて突っ込んでくる車に怯んで、あっさりと流してしまう。
「あ。あ。もう一台だけ流させて。おねがーい」
 とか。
「この車言うこときかなーい」
 なんて無線で。
 おねがいされたって信号機には通じない。
 そのもう一台が間に合わない。
 赤で停止して、右折左折で進入しようとする車を塞いでしまう。
 交差路が渋滞する。
 真ん中を仕切っている相方が罵声をあびる
 なので、相方が下手だと交差点側がどれだけ嫌な思いをするか身を持って知ってもらいたかったのね。
 けど、
 無理だったみたい。
 結局はまわりがフォローしないわけにはいかない。
 教育のために、させなくていい渋滞をさせるわけにもいかない。
 なので彼、あたふたしてはいたものの、心に汗まではかかなかっただろうと。


 あたしがこの現場の職長だったなら、そーゆー奴はやっぱ無難なとこに配置しちゃうな。
 で、自分のぶんの休憩はあきらめる。
 決してやさしさからの発想ではなく、 
 保身からね。
 現場は平穏無事に。仕事は楽にしたいのよ。
 教えたり、叱ったりしてあげるほど、あたしゃやさしくないし、あたし自身ひとに教えられるほどうまくはない。


 彼の場合、現場のなかで機能しようとしているのは伺える。
 だからまだマシなほうなのだ。
 その場に対して機能しようという発想がすぽんと欠けてしまっている種類の人がいる。
 それでも収入が発生するんだな。この世界は。
 おっそろしいですねえ〜。


 いっそのこと水商売よろしく指名制もアリにしたらいいのに。
 ちょっとした指名料をとってさ。
 だってどの現場も使える警備員には「明日も来て」と頼んでくるもの。
 ただし「こき使える」と「使える」をはきちがえている現場があるから、そうなると面倒なんだけどね。
 下っ端職人ほど、スキあらば警備員を自分の手足としてこき使おうとする。
 ま、あたしゃそういう現場は蹴るのだが。
 下っ端であれ、雑用であれ、自分の仕事を他業種にさわらせるなんてのは、プロの自覚が無いことのあらわれだ。
 ちゃんとした親方たちは、仕方なくあたしらの手を借りる状況においては、せめて軽く礼くらいはいう。
 その礼で「よそ」と「うち」の線引きをする。







 いま居るそこがあなたのパート。
 自分で機能させてください。




 追伸。
 彼。せめて周囲への感謝くらいは表明すべきだろうな。
 連投くらいで自慢しちゃいかんよ。
 自慢しちゃ。
  





 ☾☀闇生☆☽