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『007 スカイフォール』感想。


 サム・メンデス監督作ダニエル・クレイグ主演。
 『007 スカイフォール』DVDにて


 世界中のテロ組織に潜入捜査をしているNATOの諜報部員たち。
 そのリストが入ったハード・ドライブが、謎の組織に奪われた。
 英国情報局秘密情報部、通称MI6の諜報員007(ジェームズ・ボンド)の今回の使命は、それを奪還すること。
 ところが、負傷した仲間をも見捨てさせ、同志撃ちの危険も顧みない上司Mの非情な指令に疑問を抱きはじめるボンド。
 問題のハード・ドライブを盗んだ敵の首謀者シルヴァは、そのMのかつての部下だったことを知る。
 犯人の目的は、自分を見捨てたMへの復讐だったのである。


 以下ネタバレ。













 狂気のマザコン・テロリスト、シルヴァをバビエル・バルデムさんが好演。
 『ノー・カントリー』での怪演でアカデミー助演男優賞を受賞した彼だけに、はまりすぎの感は否めない。
 キャスティングとして、明らかにアテに行っているじゃんと。
 けれど実際問題として彼が登場するだけでぐぐっと期待感が否が応にも増すのだから、まあしょーがないわな。
 彼のおかげで映画がもっているんだもの。
 魅力的な悪役でした。


 テロだの、諜報活動だの、スパイだのと国際政治状況をふまえた舞台設定ではある。
 んが、
 根本的に『父殺し(エディプス・コンプレックス)』ならぬ『乳(母)殺し』のお話であった。
 それもPCオタクのマザコンが、ママにかまってもらえずDVする。というヒジョーにわかりやすい構図であり。
 絶対的な命令権を持つ上司Mを母に見立て、崇拝し、信奉し、服従し、身も心も捧げてきたのに……。というこの「何々してきてあげたのに」の「のに」に込められた見返り欲求(ハイリスク・ハイリターン)が、シルヴァの復讐心を不屈にしているのであーる。
 かつて敵にとらえられ、終わりのない拷問に耐える日々のなかで、スパイとしてのセオリーにならって自決を決意した彼。
「こんだけ尽くしてきた『のに』結局救ってくれなかったじゃんか」と。
 がんばったのに「よしよし」してくれなかったじゃんか、もおおおっと。
 無償であってこそ愛だろうに。
 そこに「のに」も「じゃんか」もあっちゃあいけない。
 あっちゃいけないが現実でも夫婦や恋人間、親友関係などによく見られるんじゃないでしょうか。
 愚痴の聞き手になってやると「のに」を山ほど聞かされるはめになる。
 そんな愛を騙った執着が、こじれたというべきか。もしくは端から無償ではなく、つまりが愛ではなかったのか。ともかく「ママのバカヤロー」っとなっちゃったわけ。
 しかも世界中をハッキングできる能力を持つオタクなだけに、タチの悪さも桁はずれ。


 Mの非情ぶりを懐疑するボンドもまた、その息子のようなものであり。シルヴァからすれば弟的存在だ。
 母っちゅうもんはあとから生まれた子の方に手を煩わさなければならないし、兄や姉はそこに多かれ少なかれ嫉妬を覚えるもの。
 ママを独り占めしたい、という執着との葛藤は本来は長ずるものが成長するために要する通過儀礼のようなものだろう。
 シルヴァのボンドに対する感情は、そういう気持ちもあったのではないだろうか。
 彼はその葛藤にわだかまって、素通りできなかった。成長しそこねた。
 しかしながら当の母Mはそういった人情を切り捨てていると。
 仕事は仕事。
 個人的に抱く感情や感傷は、国家の保安任務に支障をきたすと割り切っている。
 なのでハード・ドライブを奪った敵とボンドがもみ合っている状況でも、かまわず狙撃手に「撃て」と命令することができる。
 むろんためらいは表現されていたが。
 ただ、その母の判断にボンドがすねたのもまたマザコンがゆえか。
 昨日今日配属された新人じゃあるまいし、あそこはかっこよく「俺ごと犯人を撃て」と自ら標的になることを買って出てもよくはなかっただろうか。
 こんだけ有名なスパイが、その程度の理由で現実逃避よろしく隠遁するくだりには、ちょっと首を傾げてしまった。
 ダダこねちゃいや。
 構成上、途中にスランプを挟まなければ盛り上げられなかったのだろうけれど。
 その点、筋書きはプロレス的である。



 バットマンと同様に、この手の娯楽作は敵にどれだけ魅力があるかにかかってくる。
 個人的にはもうちょっとシルヴァという人物設定に深みが欲しかったが、バビエル・バルデムさんの持ち前の不気味さがそこを補ってくれていた。
 そういう意味じゃ大画面で見るべきなのかな。
 スタントマンたちの健闘にも感心しつつ。
 (思えば彼らスタントこそ任務のために体も、時には命も張っている。)
 みんなでわいわい観るのが作法かもしれない。





 追記。
 字幕や吹替えにしきれていないジョークやウィットがふんだんにありそうだった。
 英語に精通するひとには、会話が楽しめそうな気配。




 さらに追記。
 Mには、シルヴァという怪物を生んでしまった母としての責任感を抱かせたほうが良かったかもしれない。
 この事件の過程で徐々にそれをあらわにしていくほうがいい。
 して、贖罪として、わが子の始末を刺し違えるというかたちで決着させた方が。
 この場合、ボンド(次男)を遠ざけて(守って)ふたりきりで、という終わり方がよかった。
 映画ではシルヴァの方が母と心中しようとしているが。(それも母の手によってというかたちにこだわった。)それはNGだな。

 


 ☾☀闇生☆☽