おいしい、という評判の某夜勤現場。
しかし当たりはずれがあって、その点、半信半疑であった。
現場は住宅街の交差点。
国道から国道への抜け道ポイントにもなっており、路線バスの右左折ポイントにもあたる。
そのため、道幅の割には案外と交通量があった。
この日は季節外れなほどの陽気で暖かかったが、21時過ぎから強雨との予報が出ていた。
ケービは4人。
交差点片交。
交差点のセンターと反対側の2ヶ所をそれぞれ若手に担当してもらう。
ご年配のZさんには歩行者の切り回し。
歩道を通行止めにするため、反対側の歩道への横断を誘導する係。
ただ人通りはそれほど多くはい。
そのため、立っているだけのポジションといえた。
20時半。30分ずつ休憩を回し始める。
片交のふたりから順番にあたしが交代して回していく。
Zさんのポジションがもっとも楽なため彼は3番手。
アタマを張るあたしはラストという順番にした。
ところがZさんが時間を過ぎても休憩から戻ってこない。
21時25分から取り始めて、22時10分を過ぎる。
30分の予定が45分間である。
これはすでに誤差とはいえないのではないのか。
あきらめて会社へ連絡した。
あたしゃZさんのケータイ番号を知らない。
なので、電話に出た内勤者からケータイで呼んでもらおうと考えたのである。
なんとZさんは通勤に使った自家用車のなかで爆睡していたという。
誘導中、立ったまま居眠りをしていたので、さては、と思っていたがはたしてそうだった。
雨が降り出して、次第に強まってきている。
風も荒れて。
ただ奇跡的に寒気が和らいでいることだけが救い。
ほどなくしてZさんがもどってくる。
謝られたが、こっちゃ苦笑するほかない。
彼はダブルワークをしており、この現場のあとも都心で仕事があるということだった。
同情はする。
んが、不眠不休で稼ぐのは当人の勝手で、個人の都合ある。
それが周囲にまで迷惑をかけるとなると、それはもう身勝手というものだ。
彼のよそでの稼ぎのために周囲が骨を折るというのも、どうだろう。
これで、予定が狂ってしまった。
22時半には2週目の休憩を入れるつもりであった。
「休憩はひとりがずれると、どんどんみんながずれていってしまう」
とZさんに注意しておく。
公園のトイレで用を足し、自販機で買ったスポーツドリンクを飲みながら戻ってくると、もう22時半近い。
自分の休憩は返上した。
現場の様子をみて2週目の休憩を回し始める。
すでに雨は土砂降りで、休める場所もない。
それでも45分ずつ。
片交の若手2人、そしてZさんへと。
ただしZさんは1回目にひとりだけ長く休憩をとったので10分とした。
恐縮した彼はそれさえも断ったが、タバコくらい吸ってくださいとひと息入れさせる。
ここで充分です、とマンションの駐車場の屋根を借りてつかのま雨宿りをしていた。
そして自分の番。
前回、返上したので、ここはしっかりと取らせてもらう。
休憩3週目。
現場の終わりが見えない。
自分が片交を交代しながらまたも若手2人から先に休憩を入れていく。
すると歩行者誘導に立っていたZさんが片交をしているあたしのほうに近寄ってきて、
「闇生さん、俺もう帰る。心も体も折れた。これで辞めるかもしれない」
いいながら通り過ぎて、去ってしまったのである。
呆気にとられるが、去る者は追わず。
というより片交中なので、追えず。
24時過ぎのことである。
暴風雨といっていい嵐のなか、ひきつづき3人で現場を回す。
雨のため、すでに無線は使えなくなっている。
監督には「ひとり体調を崩したので帰しました」と説明しておいた。
すでに会社には誰もいない。
メールにて内勤者にZさんの件を報告。
なんであれ相談もなく現場を投げ出すなんてのは、前代未聞である。
社会人としてどうなんだと。
ましてや年配だ。
現場では後輩だが、人生では先輩だ。
残される仲間のことを考えていない。
なにより、お客さんである先方さんを考えていない。
この人はそうやって生きてきたのだろう。
かねてから度重なる遅刻や勤務中の居眠りを指摘されていたZ氏。
仲間はみんなこの件を知って「やめさせろ」と云ふ。
どうせまた繰り返す。
んが、人手不足のため会社は慰留したと云ふ。
☾☀闇生★☽