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覚書。12/22

平成二十八年師走の章。

 おいしい、という評判の某夜勤現場。
 しかし当たりはずれがあって、その点、半信半疑であった。
 現場は住宅街の交差点。
 国道から国道への抜け道ポイントにもなっており、路線バスの右左折ポイントにもあたる。
 そのため、道幅の割には案外と交通量があった。
 この日は季節外れなほどの陽気で暖かかったが、21時過ぎから強雨との予報が出ていた。


 ケービは4人。
 交差点片交。
 交差点のセンターと反対側の2ヶ所をそれぞれ若手に担当してもらう。
 ご年配のZさんには歩行者の切り回し。
 歩道を通行止めにするため、反対側の歩道への横断を誘導する係。
 ただ人通りはそれほど多くはい。
 そのため、立っているだけのポジションといえた。


 20時半。30分ずつ休憩を回し始める。
 片交のふたりから順番にあたしが交代して回していく。
 Zさんのポジションがもっとも楽なため彼は3番手。
 アタマを張るあたしはラストという順番にした。
 ところがZさんが時間を過ぎても休憩から戻ってこない。
 21時25分から取り始めて、22時10分を過ぎる。
 30分の予定が45分間である。
 これはすでに誤差とはいえないのではないのか。
 あきらめて会社へ連絡した。
 あたしゃZさんのケータイ番号を知らない。
 なので、電話に出た内勤者からケータイで呼んでもらおうと考えたのである。
 なんとZさんは通勤に使った自家用車のなかで爆睡していたという。
 誘導中、立ったまま居眠りをしていたので、さては、と思っていたがはたしてそうだった。
 雨が降り出して、次第に強まってきている。
 風も荒れて。
 ただ奇跡的に寒気が和らいでいることだけが救い。
 ほどなくしてZさんがもどってくる。
 謝られたが、こっちゃ苦笑するほかない。
 彼はダブルワークをしており、この現場のあとも都心で仕事があるということだった。
 同情はする。
 んが、不眠不休で稼ぐのは当人の勝手で、個人の都合ある。
 それが周囲にまで迷惑をかけるとなると、それはもう身勝手というものだ。
 彼のよそでの稼ぎのために周囲が骨を折るというのも、どうだろう。


 これで、予定が狂ってしまった。
 22時半には2週目の休憩を入れるつもりであった。
「休憩はひとりがずれると、どんどんみんながずれていってしまう」
 とZさんに注意しておく。


 公園のトイレで用を足し、自販機で買ったスポーツドリンクを飲みながら戻ってくると、もう22時半近い。
 自分の休憩は返上した。
 現場の様子をみて2週目の休憩を回し始める。
 すでに雨は土砂降りで、休める場所もない。
 それでも45分ずつ。
 片交の若手2人、そしてZさんへと。
 ただしZさんは1回目にひとりだけ長く休憩をとったので10分とした。
 恐縮した彼はそれさえも断ったが、タバコくらい吸ってくださいとひと息入れさせる。
 ここで充分です、とマンションの駐車場の屋根を借りてつかのま雨宿りをしていた。
 そして自分の番。
 前回、返上したので、ここはしっかりと取らせてもらう。
 休憩3週目。
 現場の終わりが見えない。
 自分が片交を交代しながらまたも若手2人から先に休憩を入れていく。
 すると歩行者誘導に立っていたZさんが片交をしているあたしのほうに近寄ってきて、


「闇生さん、俺もう帰る。心も体も折れた。これで辞めるかもしれない」


 いいながら通り過ぎて、去ってしまったのである。
 呆気にとられるが、去る者は追わず。
 というより片交中なので、追えず。
 24時過ぎのことである。
 暴風雨といっていい嵐のなか、ひきつづき3人で現場を回す。
 雨のため、すでに無線は使えなくなっている。
 監督には「ひとり体調を崩したので帰しました」と説明しておいた。


 すでに会社には誰もいない。
 メールにて内勤者にZさんの件を報告。


 なんであれ相談もなく現場を投げ出すなんてのは、前代未聞である。
 社会人としてどうなんだと。
 ましてや年配だ。
 現場では後輩だが、人生では先輩だ。
 残される仲間のことを考えていない。
 なにより、お客さんである先方さんを考えていない。
 この人はそうやって生きてきたのだろう。
  



 かねてから度重なる遅刻や勤務中の居眠りを指摘されていたZ氏。
 仲間はみんなこの件を知って「やめさせろ」と云ふ。
 どうせまた繰り返す。
 んが、人手不足のため会社は慰留したと云ふ。
 




 ☾☀闇生★☽