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ゾウを愛でる人たち。

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 汗かき怒号飛び交う現場にて、
 アタマ張っている先輩が差し入れにあったか~い缶の甘酒をくれた。
 ありがたく頂戴したその赤い缶を横目に睨みつつ、シーバスをなめなめ夜更かしでござる。




 はて、あれはギャグだったのか。




 ギャグならせめてお汁粉にしてくれたほうがわかりやすかったのに。
 いまだ現場で通例になっている缶コーヒーの差し入れを、自宅にため込んでいる同僚がいる。
 積み重なって部屋にはピラミッドができているという。
 まことに人というものはそれぞれで。
 底なしの「人それぞれ病」にはまって世間的な価値基準を見失っちまうのも悲劇だが、だまって俺についてこい式に押し付けられるのも迷惑なご時世である。


 とある現場のあと。
 終電後の解散なのでアシの無い後輩をその人は送ることにした。
 自身が運転する標識車に相乗りさせたわけだが、後日聞けば日ごろから彼が「絶対にうまい」と豪語するラーメン屋に連行されたとのこと。
 その後輩は本業をもつ。
 寸暇を惜しんで、一服中にもスマホやらなんやらでその原稿のやりとりなどをしている。


 おかわいそーに。


 後日、別の夜勤現場での誘導中に、あたしもそのラーメン屋に誘われた。
 現場帰りに一杯どうか、と。
 しかも無線で。
 他の隊員が固唾をのんで聞き耳を立てるなか、続けて日勤にも出るからという理由でお断りした。
 しかし彼も食い下がる。
 ラーメン屋への寄り道に費やす時間や日勤現場への距離等を算出して「日勤まで3時間はねむれるじゃん」とな。
 勘弁してくれーい!!
 その日勤はいっぱいまでかかる現場でござると。
 少しでも寝ておきたいのだと。
 重ねてお断りした次第。
 そのやりとりが他の隊員たちにウケていたらしい。


 この世の人はすべてラーメン好きであると信じて疑わないのだらう。
 おめでたい。


 あたしゃラーメンを嫌ってもいないが、特別食べ歩いて穴場を渉猟するほど貪欲に求めてもいない。
 仮にそのラーメンを食べたとすれば、彼は執拗に感想と共感を求めてくるに違いないし、それに太刀打ちできるほどラーメンについてあたしゃ知識を持たないのであーる。
 それが面倒なのだ。


 後日ほかの現場でまたその先輩とご一緒した。
 お気に入りのパン屋で見つけた「感動的なうまさのクリームパン」をその日組んだ仲間全員にふるまっていた。
 わざわざそのために早起きして人数分を買い込んできた、という前情報ありきでのご馳走だ。
 それがすでに共感の強要をにおわせている。
 なかに平成生まれの後輩がいて、案の定、食後をねらってその感想を強いられた。
 しかし空気を読まない若者らしさがそこに作用して、彼曰く、


「べつにフツーのクリームパンて感じっすね」







 感想への感想はなかったという。
 「群盲像を愛でる」という言葉は、いまや差別的であるとして使われなくなったのだろうか。
 あまり聞かなくなった。
 事実の全体を見渡したうえで実態をつかむことなど、しょせんは出来損ないがゆえのニンゲンだ。できっこない。
 人はそれぞれ。
 とはいえ、象は象である。
 亀やカボチャやクリスマスではない、という基準くらいは持っておいた方がいい。
 んでまた「それぞれ」を楽しめないことには、日々は楽しめないのだな。
 




 ☾☀闇生★☽