壁の言の葉

unlucky hero your key

ノック。

 夕刻、ドアをノックをされる。
 わが詫び住まいは、低所得者向けのおんぼろアパートである。
 ドアにのぞき穴もなければ、インターホンもない。
 して、先方は名乗らない。
 テレビも無いのに受信料だの勧誘だのでごねられては面倒だと黙っていると、またもノックが。
 

 はい?


 と不承不承にリアクションをしてみる。
 「闇生さん」
 と応えたのはおっさんの声。
 なんでしょう、と返すと「すいません」ときた。
 どなたですか?
 「○○です」
 覚えがないので、知りませんと返す。
 「あのお……、すいません」
 なんの用っすか?
 「ジュースを持ってきました」
 は?
 「ジュースです。ジュース」
 押し売りか。
 仕方ない。おそるおそる少しずつドアをあけていく。
 隙間からぬっと手が入れられて、コンビニのレジ袋を突き付けられた。
 見れば隣の戸建てのご主人ではないか。
 「これ、ジュース」
 あ、すいません。ども。
 なんでも、地方のご親戚から送られたご当地ジュースをおすそ分けということだった。
 レジ袋にはリッター瓶が二本。
 となれば善意にたいして冷たい反応をしてしまった、と反省したくとも詫びる間すら拒むように先方は踵を返して引き返してしまう。
 悪いことをした。
 確かに苗字を名乗られはした。
 んが、そこが賃貸住まいの悪いところで、近隣の戸建ての表札になんか興味がない。
 朝晩に会釈を交わす程度の接触なら、なおのことである。
 こちらも長年住み続けているので、低所得の賃貸者とはいえよしみを深めておこう、との計らいなのだろう。
 すんません。
 こっちゃ需要の無いニンゲンだもんで、
 世界側からリアクションされるのはほぼほぼネガティヴな要件ばかりなのであーる。
 徴収とか。
 支払いとか。
 人の嫌がる仕事とか。
 クレームとか。
 だもんで、底辺は往々にして世界側からの声を訝る。
 


 やあね。



 貧すりゃ鈍する、と。
 悪循環と。
 



 さあて、
 不定期な休みにつられて体内時間が狂いっぱなしである。
 ひと月以上も前に他者へ託した原稿の感想は、いまだ無い。
 反応すらない。
 返されてくる「こんどゆっくり飲もう」という文句もすでに三度目くらいなので、よしこれは社交辞令ではないと判断す。
 その折には感想などを聞かせてもらえるのかと期待して都合のいい日時をメールするが、やはり反応はない。
 なんなんだ。あたしというやつは。
 










 ☾☀闇生★☽