壁の言の葉

unlucky hero your key

歯。

 毎食後、フロス(糸ようじ)を使うのが習慣となっている。
 夜勤明けの土曜のあさ、就寝前に歯間のおそうじをしていたら、左上の奥歯の詰め物がとれてしまった。
 とほほ。
 ひと眠りして午後、とれた詰め物を片手に近くの歯科医院に飛び込んだ。
 予約もなく、事情を話すが、受付に出てくれたふたりの女性は挨拶もない。
 愛想もない。
 むしろ怪訝なようすですらある。
 おまけにマスクをしたままつっけんどんに話すので、怒っているようにも感じる。
 看板には『救急外来』も受け付ける旨明示されてあるのにー。
 彼女らは「予約優先なのでお待たせしてしまう」を繰り返し、あたしゃ「どれくらい待つのか」と問い返しつづける事態に。


 らちが明かない。


 ならば月曜に出直すから予約をいれてくれと頼む。
 何時からならあいてるかと問えば、開院時間から大丈夫だといって切り上げようとするではないの。
 名前すら聞いてくれんのか? と。
 こちらから聞いてやっとメモをとってくれた。


 なんなんだこれは。


 不快に思って駅前まで足をのばす。
 歯医者が飛び込みで治療してくれるなどとはおもわないが、いちおう別の医院の門をたたく。
 そこの受け付けの女の人は好感触~。
 ともかくもマスクをしていないので、柔和なその表情がわかった。
 むろん「予約でいっぱいですので……」とことわりをいれつつも「一応、先生に聞いてきます」と治療室へ向かってくれる。
 かたじけなし。
 待合室に順番待ちの患者さんたちが何人かいたし、決して暇ではない様子で。
 治療の音も奥からきゅいんきゅいん聞こえてくる。
 受付の人がもどってきていうことにゃ「治療のあいまに、ともかく診てみよう」と申し出てくれた先生がいるという。
 ありがたし。
 とりあえず応急処置的に持参した詰め物をつけてくれた。
 虫歯チェックとレントゲンで検査もしてくれた。
 虫歯は無しと。
 前回の歯医者通いがもう6年以上もまえになるからそうとうガタが来ていてもおかしくないらしいのだが、全体にきれいだという。
 きっとフロスの習慣のおかげだろうと、あたしゃ思っている。


 もちろん、最初に行った歯医者には行かない。
 









 二度と行かない。







 ☾☀闇生★☽