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男の背中。


 この日新規参加のOさんはうちの会社歴2か月ではあるものの、警備歴は6年。
 それ以前はF社に所属してK町の駅前開発の職長をされていた65歳である。
 長引く欠員状況下でこき使われ、おまけに今年から高齢者待遇となって減給された。
 そのことに腹を立てて移籍したのだという。 
 労働条件が改善されないままの減給に、プライドを傷つけられたとのこと。
 そのK町の現場は、うちの会社もJVとして参加しており、その縁でうちに誘われたのだそうな。
 しかし移籍して驚いたのは軍隊のような規律、そして厳しさ。
 軍隊に入ろうと思って移籍したんじゃないんだけどなあ、とこぼす。
 この日は日勤の常駐現場からの連投。
 息が酒臭かった。
 そしてこの現場のあともその常駐先へ行く。
 始発まで、コンビニでビールでも飲んでようかなあ、などとこぼしているところをみるとアル中の気があると思う。


 24時間稼働しているゼネコンの建築現場に常駐していたことが誇りなのだろう。
 チームの配置や仕切りはできるのだろうが、片交は下手くそ。
 成立はしているし、目視で相方側の状況は確かめてはいるのだが、無線に頼りきってしまっている。
 合図は皆無だった。
 だから無線がかぶったときに難渋する。
 ガードマンが通常使用している無線機もまた、片側交互通行のようなもので、かわりばんこにしか話せない。
 同時に話すと、打ち消し合って通じないのである。
 それに気づいていないのだ。
 高齢者に多いのだが、興奮すると通話ボタンを押しっぱなしになる傾向がある。
 その間、他の隊員は返答もできなければ、割り込むこともできない。
 まあそれがF社クオリティというやつだろう。
 他の現場でもそういう片交をしているF社を目撃したことがある。
 お互いに背中を向けあって、無線だけでやりとりしている。


 無線はあくまで補助として使うのがセオリーっす。


 休憩時間はずっと彼のおしゃべりに付き合わされて仮眠ができず。
 てめえだけ喋っている。
 半生と苦労譚。
 そして、かつてどれだけ自分が顔を効かせたか。
 転職したばかりで、溜まっているものもあるのだろう。
 むろん、年配の話は傾聴に値する。
 あたしゃそれを心得てはいるのだが、夜勤の貴重な休憩時間を聞き役で終えるのは、しんどいわ。
 こちらの眠いぜアピールにも、気づいてもらえず。
 またこちらのリアクションも話もスルーされて。
 このショーバイ、気づかいで成り立っているのに、そりゃねえよ。
 彼は、この会社にとって新参者だから軽視されるのではないかと懸念されていたが、それも無いね。
 残酷なほど、使えるか、使えないかしか無い。現場っちゅーもんはね。
 なぜなら足手まといが仲間にいれば、迷惑はむろんのこと危険までをダイレクトにひっかぶることなるから。
 逆に、若かろうが移籍者だろうが、使えれば重宝される。
 彼だって前の会社で職長として務めた現場では、そうやって「使える・使えない」で隊員たちを選別していたはずである。




 顔を効かせたいならトークで主張するのではなく、技量で唸らせてくれ。




 ☾☀闇生☆☽