ぱちぱちとなにかが爆ぜる音で目を覚ます。
午前零時。
すだれ越しに満月。
火事か?
飛び起きて耳をすました。
網戸の外をうかがう。
ちがう。
水の音である。
雨?
外灯の明りの輪を凝視するが、そんなようすもない。
強まったり、弱まったり。
ぴちゃびちゃ、ざあざあ。
こんな夜中に誰かが水を撒いているのだろうか。
酷暑が続いている。
個建ての誰かが庭の草木にシャワーしてやっているのかもしれないが、それにしても夜中である。
気になっておもてに出た。
音をたよりに行くと、すぐ近くのアパートの敷地の地面が濡れているのを発見。
二階の外付けの共用廊下に女性の姿があって、近寄っていくあたしの姿を認めるや彼女は目を逸らした。
ただならぬ「関わって来ないでよ」オーラ。
プラス「どうしようどうしよう」オーラ。
どうやら音の出何処はその人の部屋で、外付けの給湯器か水道のなにかが壊れてしまったらしい。
水の出何処を両手でおさえているようだった。
声をかけて手伝おうか。
しかし夜中だし、
まったくの他人だし。
こっちゃおっさんだし。
せめて管理会社かどこかには連絡したのかくらいは確認しておこうか、と躊躇するまでもなくリアボックスをつけた原付でかけつける男の影。
男が階段をのぼりながら女性とコンタクトを始める。
ああ、水道の修理屋がきたんだなと、安心してコンビニで『れん乳氷』を調達してもどる。
駆けつけた男の影は3人に増えていて、無線らしきノイズが洩れ聞こえていた。
原付のリアボックスには“POLICE”とあるではないか。
修理屋じゃなくて、警察をよんじゃったのね。
あるいは修理屋の手配よりさきに、誰かの通報を受けた警察が先に着いたとか。
なんにせよ、これでひと安心だ。
心おきなくれん乳氷をいただくことに。
連日、酷暑なり。
クレーマーのるつぼとなる都会の密集地での建築現場。
第三者優先、住民優先の誘導を徹底するのだが、ものには限度というものがある。
タイミング的にお待ちいただかなくてはならない瞬間は、どうしたって生じるのだ。
さらに言えば、優先はあくまで優先であって、なにをしてもいいということにはならないはず。
いくら自宅前だとはいえ、路駐した車のドアを全開にしたままでいるのってどうよ。
ドアが通行を塞いでいる。
同じように道幅の狭いところでわざわざ路駐して長電話。
それらがクリアになるまで、我々は工事車両に出入りを待たせなくてはならない。
工事も遅れる。
タイミングが悪ければ、それで渋滞をつくることにもなる。
声をかけると即クレームだ。
工事云々、警備員云々のレベルではなく、もはや常識の問題ではないのか。
たとえば無礼講が、迷惑や非常識までゆるすものではないことくらい、わかりそうなもの。
けど、世の中にはそれがわからない人たちが確実にいるのね。
かりにこれが通行中のほかの一般人からの指摘ならどうだったろう。
連中は警備員へするのと同じように噛みつくのだろうか。
「責任者呼んで来い!」
今回のような水漏れだって、原因が工事現場ならここぞとばかりに大騒ぎになるんだろう。
たかだか水で。
しかしまあ「カネ持ち喧嘩せず」とはいうものの、それはそのカネ持ちの資質によるのだと、あらためて。
あたり一帯おなじ苗字の家の続く某都下の現場では、地元の方々は実におおらかで協力的だった。
あの畑もあのマンョンもあそこスーパーもこっちのテニスコートも、ぜえんぶ某さんの土地、といった緑あふれる環境。
それから、梅雨入り前に付いた、日本語を覚えなくても不自由しない外人ばっかが住むコンセルジュ付きの高級マンションの住人も、度量がひろびろとしていた。
まあ、騒音も振動も完全にシャットアウトできるレベルのマンションなんでしょうが。
明日も酷暑だろう。
眼が冴えてしまった。
けど、もう一度眠っておかねば、身体が持たない。
お休み。
☾☀闇生☆☽