ぐだぐだの夜勤なり。


 某有名アパレル大衆店のショウウインドゥを覆うシール広告の貼り替えがおもな作業だ。
 あたしら誘導は、その工事車両のテーパーと歩行者誘導である。
 道路使用のゆるされた24時からが通常の開始時間なのだが、この日の昼に時間変更のメールが入っていた。
 22時作業開始とのこと。
 現着して監督の説明を訊く。

 
 店舗は、中央の玄関をはさんで左右にショウウインドゥを備えている。
 左はすでに全面をシール広告で覆われて店内が見えない。
 その目隠し自体がリニューアルの告知を兼ねているのである。
 右は、マネキンを配した通常のディスプレイ。
 先方の指示によれば、右側のディスプレイを22時の閉店後ただちにシール広告で覆い隠してくれとのこと。
 この広告も目隠しとリニューアル告知を兼ねている。
 完了次第、店内のマネキンを撤収したいとのことであった。
 左側のシール広告の撤去は、4時からにせよとの下知。
 それまでに店内のディスプレイを済ませるということだ。
 ようするに、作業中を見せないように考えた段取りなのであーる。
 人間で言えば「着替え中だから見ないでね」といった具合だろう。
 しかし、のっけから先方との呼吸が合わずに閉口してしまうことに。
 閉店次第に右側マネキン側から作業開始する手筈なのだが、その開始の目途が、ディスプレイの消灯であった。
 各業者の職人一同が歩道にずらりとならんでスタートのピストルを待っているような状況。
 ところが22時の閉店から一時間近く経っても、一向に照明が落とされる気配が無いのである。
 退屈のあまりガードレールにケツをあずけて行き交うジョシたちを愛ではじめる作業服の面々。
 どうやら内装担当の工事会社との連携がうまくいっていないのが原因のひとつであり、もうひとつは店舗さんのスタッフ内の統制がとれていないことにあると思われた。
 店付きの守衛さんでさえも、その日の流れを知らされていないのである。
 全体を統括する人間が誰で、何処にいるのかもついに明確にされなかった。
 店舗さん側で相番していた人間は、はたして居たのだろうか。
 工事開始時間の繰り上げも、道路使用許可を無視したものである。
 ともかく、待っていても埒が明かない。
 結局見切り発車で右側マネキン側の広告貼り付けを開始した次第。
 01時半、一旦終了。
 散会。
 そこから03時半まで各自思い思いの場所で待機をすることに。


 自分は高島屋の北面にあるベンチでまどろんだ。
 ホームレス避けのひじ掛けがないべンチだったが、横になると守衛がそれを注意しにくることは以前、夜勤明けの始発待ちの経験で知っている。
 眠れず、暇をもてあましてコンビニでカップ麺を求める。
 03時半。
 ふたたび現場店頭に集合するが、問題の左側の店内ディスプレイがまったく準備されていない。
 なにひとつ手をつけていないといった状態である。
 我らが若き監督はあたまを抱えてしまう。
 焦れる職人たちの手前、これ見よがしに悩み、聞えよがしに唸ってみせる。
 そのあたり、実に青いじゃありませんか。
 んなことしたって無駄なのだ。
 唸ってどうにかなるなら、あたしだって一肌脱ぐさ。
 腹の底から唸ってみせよう。
 けどんなことしたって職人たちはケツカッチンなのである。
 このあと日勤を抱えているのだ。
 監督は若いので、内装担当の別業者の老監督にいいようにあしらわれ、交渉という選択肢をまったく思いつかないようであった。
 その内装班は、思うに、広告担当のこちらの事情なんか少しも気遣っていやしない。
 いなかっぺ。
 自分さえよければいい。
 開始時間の繰り上げも、おそらくは内装の彼らの「早くから取り掛かれるようにしておくに越したことはない」という考えからだろう。
 自分たちがいつでも始められるようにしておいたというだけのことである。
 監督としては忠犬よろしく道路使用許可の限界06時までは待ちましたよという態はとりたいようではあったが、職人たちのプレッシャーに負けて当初の段取り通りに04時から撤去。
 この時間を越えれば商品の搬出入ラッシュが始まり、通勤の歩行者も増え始めるのだから致し方ないだろう。
 ピーリング作業は運よく糊残りも無く、ものの10分で完了してしまった。
 これには拍子抜けしてしまった。
 がらんと、何もないディスプレイがさらされることになる。
 『着替え中』の更衣室のドアを開けたら、誰もいないといったところか。
 ここから先は「生着替え」をお楽しみください。 
 あまりに早く終わってしまったことにまた若き監督は頭を抱えてしまうのだが、知ったことではない。
 各業者の作業工程の調整など、全体を考えた段取りが悪すぎるのである。


 毎度のことながら、歩行者は酔客が多かった。
 みなご機嫌さんである。
 その勢いかあたしら警備の誘導文言をサルまねし、大笑しながら通り過ぎる男女がちらほらと。
 およびスマホに気を取られて前方を見ない若者たち。
 イヤホンまでしているから注意の促し様が無い。
 酔っているから道の譲り合いにまで気が回らず、仲間と横に並んだまま行き交うのだからたまらない。
 わがもの顔のチャリ助、チャリ子、チャリ婆などなど。
 堪える。
 耐える。


 
 ご協力ありがとうございま〜す。
 


 記憶に残ったのが、帰っていく売り子さんのなかにたったひとりだけ「おつかれさまで〜す」と笑顔をくれたジョシがおられたこと。
 かたじけなし。
 おっさん、ときめいちゃいました。


 

 04時半、退散。
 先輩Aさんはこのあと09時から勤務をひかえている。
 あたしゃ1時間かけてえっちらおっちら自転車でアパートにかえる。



 おつかれ。




 追記。
 思い起こせば、店舗の改装がらみの誘導はいつも似たような経験をするなあ。
 店舗側は、工事の発注も誘導の発注もし慣れておらず。
 理想的な要求を一方的におしつけがちのように感じる。
 理想を現実にするには、なんの仕事であれ大なり小なりの妥協や、変更や、工夫が必要になるはず。
 一方からの視点だけでは、そういう相乗効果は生まれまい。
 安全対策もまた然り。
 現場のことは現場のプロの声を、少なくとも参考にすべきだと思うのだが。


 それと少なくとも自社内への周知と協力の要請くらいは、しとこうよ。
 チーム内ですら足並みがそろわないんじゃ、お話にならない。
 普段の早朝の搬出入の様子も、ちゃんと把握しているのだろうか。
 歩行者になんの遠慮も無く、歩道を台車で我が物顔に行き来しているあの光景は、どうなんだ。
 協力会社のふるまいも、接客態度に含まれるのであーる。 



 ☾☀闇生☆☽