壁の言の葉

unlucky hero your key

 月曜。
 仕事が入らない。
 土曜に会社からの連絡を無視し続けたので、その腹いせでもされているのだろうか。
 遠い現場ばかり指示してくるので、小生、大人気も無く不貞腐れていたのであーる。
 ベテランKさんがかつて一週間ほど干されたときも、配置を担当する無能社員と衝突したあとだったと聞いた。


 …と、
 ここまで書いてそろそろ早めの晩酌にしようかと、京王ストアで買ってきたカツオの切り身が頭をよぎっていたところ、会社からケータイに連絡が入る。
 幹部さんである。
 今日の夜勤に出られないかとのこと。
 場所を訊くと高田馬場だという。
 ああ、またチャリで1時間半はかかる現場だ。
 賞味期限を迎えたカツオの切り身が、あたまをよぎりやがる。
 おいでおいでしやがる。
 一度労働意欲のスイッチを切った状況で、遠い遠い現場を鼻の先に付きけられても、食指は動かない。
 んが、
 年始から無休で連投して稼いだぶんを、実家の新築祝いとメガネの新調と、そして原付購入でほぼ使い切ってしまったことを思い合わせて、渋々それを受けた次第。




 現場は他支社の管轄であった。 
 年始に付いた官庁街の現場でご一緒した面々と、再会することに。
 

 現場は舗装打ちかえ工事に伴う交差点規制。
 二方向の片交。
 交通量が少ないので、無理に右左折進入を喰い止めて規制側をフライングさせるようなことまではしなくてもいい状況。
 学生街であった。
 なので遅くまで酔った若者の歩行者が多い。
 テンションのあがった若者たちの奇声があっちこっちであがる。
 四方向ある横断歩道の一つを通行止めにするために、歩行者には交差点を大きくコノ字に迂回してもらわねばならず、これを担当した自分は喉をからす羽目になる。
「おそれいります。直進は通行止めです。交差点の反対側からまわってください」
 と身ぶり手ぶりで連呼するのだが、決まってこうかえされる。
「向こう側、通れんの?」
 通れるから、回って下さいってんじゃんかよお。
 通れないところに案内するわけないでしょって。
 腹の底で怒鳴り散らしつつ「はい、通れます。どうか反対側から、恐れ入ります」と頭を下げる。


 またここは非常に自転車が多かった。
 バカチャリである。
 彼らは規制の片交などおかまいなしだ。
 自転車はすでに軽車両という扱いだ。
 よって車道を走ることが義務付けられているのだから、信号はむろんのこと、左側通行もまもらなくてはならない。
 それがまったくの無法地帯なのだ。ここは。
 てか、ここも。
 逆走(右側通行)なんてのはあたりまえで、交差点の斜め横断も珍しくない。
 片交の制止なんか平気で突破していくし、歩道に入ったり、車道に出たりと、ぶんぶん五月蠅いのなんの。
 この現場のレギュラー隊員たちもそのあたりすでに諦めてもいて、まったく眼中にいれずに片交を続けて行く。
 まともに対応していたら、交通が成立しないほどなのである。


 零時前には合剤が入りはじめ、02時には転圧も型がつき、仮の白線を監督たちが書きはじめる。
 02時半には規制解除していただろうか。

 
 官庁街でご一緒したIさんがなにかと声をかけてくださって、ありがたかった。
 他支社からのゲストの身分としては勝手が分からないことが多く、肩身も狭いのである。
 また他支社からの応援ときくとわざと厄介なポジションにつけてこき使う現場もあるのだが、ここは違った。
 そのあたり、感謝である。
 終了後には官庁街で同じくご一緒した別の隊員Yさんも、声をかけてくださった。
 近況の交換など、ひとことふたこと。


 03時、現場を去る。
 夜勤を想定していなかったので、日中は普通に起きており、そのぶんこの帰路は猛烈な睡魔に襲われた。
 カツオめ、
 カツオめ、
 と甲州街道をひた走って帰ったのであーる。






 ☾☀闇生☆☽