仕事が無く、身体が疲れないせいだろう。
 睡眠が浅い。
 すぐに起きてしまう。
 昨夜も深夜から未明にかけて何度も目覚めてしまった。
 無駄な抵抗はやめてレンタルの『さや侍』を観る。
 どうせ何度も観るのだからと、はしたなくも寝酒のお伴として観はじめた次第。
 そのせいもあってか不意をつかれた。
 すまん、
 ラストでまんまと号泣す。
 不満な個所は多々あった。
 そりゃあ、あった。
 その不満を咀嚼しつつ、泣いた。
 よって映画の完成度は決して高くは無い。
 それでも、もろもろ考えつつ感じて、泣いた。
 その感想は、後日ここに書く。


 さておき、


 せっかくの連休だが、例によってこの男カネが無い。
 行ける場所も無い。
 行きたい場所も思いつかない。
 仮に無理をして外へ出たところでどうせどこも混雑しているのだから、と気が進まない。


 ……ということを、何年続けているだろう。あたしってば。
 ニヒル牛の『旅本』執筆者たちの旅欲のたくましくさを考えれば、そんなのは言い訳である。
 カネも時間も、それらが無いなら無いなりに、身の丈に合った旅があるはずではないか。
 なんせ『自宅に泊まる』ことまでしてのけた作家がいるくらいなのだ。


 そこで、以前友人に教えてもらった近所の温泉に行ってみた。
 日帰り温泉施設『季乃彩(ときのいろどり)』である。
 最寄駅は京王線南多摩駅
 闇生のアパートからは自転車で20分ほどだっただろうか。
 実は未明の段階ではまだ迷っていた。
 気を重たくさせていたのは、やはり混雑で。
 あたしゃ人ごみが大の苦手なのであーる。
 しかし5時に布団に入り、目覚ましなしで目覚めたのが6時40分。
 ネットで検索すると休日は7時から朝風呂ができるとのことなので、これもなにかのご縁でござると自転車に飛び乗った次第。


 着いてみるとそこはやはりGWである。
 朝の7時でも駐車場にはすでに車が何台も入っている。
 靴を下駄箱に入れ、その鍵を受付嬢にあずける。
 代わりにバーコードのついたリストバンドをもらう。
 食事などの館内の有料施設はそのバーコードを通して記録され、退出時にまとめて精算するシステムだという。
 (ちなみに自販機もこのバーコードで済ました。現金決済はマッサージチェアとゲーム機くらいだったと思う。)
 レンタルで大小のタオルセットと、タオル地の甚平のような館内着を所望す。
 これを使っているのは、全体の半数くらいだったろうか。
 リピーターたちはみなそれぞれにリラックスできる服を持参しているご様子で。
 ただし岩盤浴エリアは別料金なので、それを館内着の色で判別するシステムであるという。
 それに、あれは汗ででろんでろんになるものね。
 初心者の闇生は今回、通常の入浴だけにしておいた。
 ボディソープ、シャンプー、リンスは備えつけのがあるとのこと。
 なのでそのまま二階の『男湯』へ直行す。


 館内にスリッパは無い。
 すべて裸足で、トイレと屋外休憩スペースにだけ下駄が用意されてあった。
 そこは清潔感に自信あってのことなのだろう。
 あちこちにクイックルワイパーの業務用みたいのを使うスタッフの姿があった。


 湯屋は、源泉循環式の湯殿が屋内・外に。
 同、かけ流し式は露天にのみある。
 ほかには井水循環式の果実湯、五右衛門風の酒粕風呂、炭酸湯、弱電流などなど。
 サウナはドライと草蒸し風呂の二種類。
 湯殿には垢すりコーナーまであった。
 閉口したのは、そこの女性施術師たちが当たり前のように脱衣所→洗い場→アカスリコーナーという動線で出入りしていたことだ。
 ケツもチンコも丸出しのおっさんたちが行き来するなか、いくら若くはないとはいえ、かといって年寄りでもない異性が出入りしているのであーる。
 闇生はそれを知らずに男湯の暖簾をくぐったものだから、その女性スタッフと行き違ってびくっ、としたよ。
 思わず「すんません、間違えました」と逃げ出すところでござった。


 しかし考えてみれば、江戸時代には三助という職業があったのだ。
 背中を流したりアカスリをして働く男衆三助」。
 彼らは女湯でも同じように働いていたわけだから、日本ならではの大らかさと言えば大らかさなのだろう。
 あそうか。江戸時代なら銭湯も、洗い場は男女の別が無かったのでしたな。
 まあ、遠い墨絵の国のお話でございます。


 ともあれ、
 かけ湯して、洗い場で簡単に洗ってから、さっそく風呂へ。
 まずは源泉。
 いい感じで燗がついたあたりでいざ露天風呂へと。
 肩まで浸かって見上げれば、そこに青天井である。
 自宅からこの距離で露天風呂が楽しめるというのは、正直ありがたい。
 これならば日帰りとはいえ、それこそ自宅には寝に帰るという感覚でいれば、なんちゃって旅気分が満喫できるという具合。


 この日のこの時間は、空いてもいないが混んでもいないという状況であり。
 おたがいに見計らって空いたスペースを見つけては、種類の異なる風呂を順次たのしんでいくという無言のやり取りが繰り広げられたのであーる。 
 飯も食わずに長風呂したせいで、風呂を変えるたびに立ちくらみに襲われた。
 とりあえず一度出て、水分を補給す。
 水、うまし。
 脱衣所の給水機の水、ありがたし。
 館内着に替え、持参した本を携えて、無料休憩所にて休むことに。
 リクライニングシートでしばしウトウト。
 漫画も常設してあるし。
 軽食コーナーではソフトクリーム、ソフトドリンクなんかも売ってるし。
 食堂での食事は10時からだが、ビールなら開店の9時から飲めるとのことだった。
 うたたねと読書をくり返して10時に食堂へ。
 奮発して、びっくりエビフライ御前をいただく。
 1,580円也。
 昼どきは混雑するとふんで、ならば遅めの朝食にして昼食も兼ねてしまえという目論見なのである。
 ズバリ読みが当たって、ガラ空き。
 整体の順番待ちがてらにビールを愉しむお年寄りと、テレビの前に陣取って無言で肩を寄せ合うゲイらしきカップルのみ。
 飯はといえば、その名の通りえびがロングで、びっくりでした。


 食後にまた入浴。
 10時を過ぎてちょっと混んでくる。
 すでに身体は温まりきっているので、さすがに長風呂はできない。
 マッサージチェアをあれこれ試して、ハマる。
 ベッド式のやつに、ハマる。
 首根っこつかまれて、喘ぐ。
 腰を突きあげられて、呻く。
 あったか〜いので背骨の両サイドをなぞられて、蕩ける。
 日本の技術、畏るべし。
 蕩ける。
 とろける。
 トロケル〜……。
 機械によるコリの治療と体幹の矯正を追求しつづけて、何十年になるのか。
 ついにここまで複雑怪奇で繊細で正確な動きを完成させたのは、日本人ならではの視点とこだわり抜いて勝ち得た技術力によるであろう。
 もうね、こっちゃとろんとろんよ。
 と感心しつつも、想像はふくらんだ。
 レイバーの暴走よろしく、これ、使い方を誤ったら死ぬね。人。
 首根っこを強くつかまれて腰を反らせられたとき、その反りの機能が暴走したら、死ぬね。おれ。
 実際にはあり得ないけど、仮に故意にそう設計したとしたら、そういうことだ。
 あるいは、ここに費やされた研究の蓄積とその高度な技術力が、目的をエロに変えたなら……。
 そう、性別を越えた、と〜んでもない革命がおこるね。
 昇天革命だね。
 相手が人間で無くても按摩は、効く。
 外観的に性別を、ひいては人間を模していなくても按摩は、効く。
 いわんやこのエロ・ヴァージョンをや。


 あほか。


 休憩スペースでしばし読書。
 背伸びしてお固い本を読書。
 湯治でゆであがった脳みそに、水風呂よろしくムチを打つ。
 子づれが多く、その子供たちを観察していると愉しい。
 ここに小さな子供向けの施設は多くない。
 ガチャポンくらいか。
 ちっちゃなゲームコーナーは中学生以上向けといった趣向だし。
 しかしそれらもかえって目障りに感じるほど、館内はシンプルで好印象である。
 あくまで『湯治』に焦点をしぼったところがいい。
 いや、更にしぼれと思う。
 スロットと小型のクレーンゲームがそれぞれ3、4台といった程度の半端なゲームコーナーなど、いっそ無いほうがいい。
 あれもこれもと欲張って子供の遊び場と化しては、日常の喧騒から逃れて来る意味が無いではないか。
 常設の漫画も多くは無いが、漫画喫茶のようになってもどうなんだという話になる。
 ふたつある休憩所の一方は、テレビが点けっぱなしになっているが、個人的にはあれもいらない。
 仮眠や読書の邪魔で、うるさい。
 小さな子供というやつは、それでも目新しいものを見つけては愉しむのであーる。


 リクライニングで寝ているパパの上で、掛け布団になりきっている女の子が面白かった。


 しっかし、漫画はやっぱ人気あるねえ。
 本棚からシリーズものを5、6冊ずつまとめて取ってきては、みんな仰向けで読んでいる。




 いま、朝の3時半。
 また今日も朝一で行ってしまおうかと企んでいる。




 追記。
 館内は、BGMが鳴っている。
 オルゴールで『菊次郎の夏』とか『Time To Say Goodbye』とか。
 露天風呂にも流れていた。
 けど、あれも邪魔っけだなあ。
 無音か、もしくは鳥の声やせせらぎでいい。
 


 ☾☀闇生☆☽