壁の言の葉

unlucky hero your key

 M通りの拡張工事である。
 自分はこの日新規入場。
 施工個所はM通りとH街道の交差点付近。
 H街道の下り車線、交差点接続部10mほどの打ち換え舗装。
 警備はJV体勢。
 つまりが各社混合チーム。
 メインがこのところのしてきているV社であった。
 彼らが片交と規制への重機類出し入れを担当し、うちらが三名で歩行者誘導をするという振り分け。


 この現場のV社組とうちら組の間にはなぜかしら壁があって、視線も交わさず、挨拶すらかえさない人が多かった。 
 言葉を交わしてくれたのは、一人。
 あとは女性隊員がひとり会釈を返してくれたくらいかな。
 彼女が交差点のセンターを任されていたが、自信のなさそうな仕切りっぷりであった。
 規制側への右左折を強引に切ることをせず、おろおろと、右左折が無いことを願っているような、そんな誘導。
 くわえて信号の変わり目の右左折進入によって規制側の発進が遅れそうな場合、タイミングを見極めて対向車側から発進させるという臨機応変も、あまりスムーズにはできていなかったように思う。
 零時を回ってバスの最終が済むと交通がめっきりと減るのだが、そのころになってようやくリーダーっぽい巨漢がセンターに立った。
 真打登場といったところでしょーか。
 もともと彼は片交の規制側に立っていたが、見るに見かねてポジションチェンジを敢行した形だった。
 まあ、通行の激減したいまさらになって出てくるなという観がありますが。
 確かに動作と仕切りに余裕があって、右左折の見極めも早い。
 それでいながらの歩行者の誘導もこなすというまことにもって堂に入ったものであった。
 どこの警備会社にも出来る奴というのはいるし、また出来ない奴というのもいるものなのだと。


 ここでのうちら組は、先にも記したように歩行者誘導のみ。
 交差点四方の横断歩道のうちのひとつが規制にのまれるため、動線は交差点を大きくコの字に迂回する。
 歩行者が信号に二度も足止めをくらわされる面倒な動線ではある。
 んが、にもかかわらず苦情も悪態をつかれることもほとんど無かった。
 うちら歩行者誘導組はこの現場を先に経験していたKさんが仕切ることになったが、23時近くまで休憩を回してもらえなかったのは残念である。
 うちらに任されたポストは交差点をはさんだ二カ所。
 んで、
 余ったひとり枠は休憩要員にとの先方からの説明だったにもかかわらず、Kさんは通行者が激減する時間帯まで頑なに三ポスを守ったのである。
 規制側の歩道をKさん+1名の二人でやっていたが、対面担当の自分からみても一人で十分に対応できる状況だったと思う。
 少なくとも規制が完成して固定の重機類が入ったら、トイレ休憩くらいは回すのがリーダーの義務ではないのか。
 おちっこちびっちゃうぞっ。
 V社組でさえ、21時半には一服をまわしはじめていたのだから。


 そんなわけで、彼は施工の進行具合も読みとれなかったらしい。
 三週目の休憩のラスト、Kさんの休憩中に規制の解除とあいなった。
 そして終了ということになってしまった。
 別にそれで何の問題もないが、開始直後と終了間際がもっともリスクの高まる状況なので、その時間帯に警備が全員そろっていないのは、有体に云ってかっこわるいと。
 02時50分終了。
 詰所で監督が現場から戻ってくるのを待ってサインを頂く。
 03時20分現場を離れた。


 ちなみに、Kさんももう一人もダブルワーカーである。
 Kさんはテレビ関係とのことで、日中は都心あたりで制作かなにかに関わっているらしい。
 もうひとりの方は若い。
 まだ君づけで呼ばれるのが似合う子で、肌もつるっつるで、毎日眉もきちんと手入れするような世代でありつつ、話せば舌ったらずだ。
 んが、それでも日中は余所で働いているという。
 何をしているかは訊かないでおいた。




 ☾☀闇生☆☽