夜勤現場への道中、移動の車内で名物(迷物)隊員Sさんとご一緒することに。
 ここぞとばかりに身の上話を聞く。
 五十路半ばを越え、前職は工場勤務の職人さんだといふ。
 モデルガンマニアで、その熱い想いをつのらせるあまりに離れがたくなり、現場にこっそりと愛用品を持参するほどだから、工場の工作機械とモデルガンという組み合わせから、何やらイケナイ想像をしてしまうだろうが、それはいい。
 こわいから問いたださずに、置く。


 置こう。
 

 バツイチであるという。
 元妻は中国の人だという。
 当人曰く、双方了解のうえでの偽装結婚であったという。
 どうだか。
 ともかく数百万を貸したまま離婚と相成った。
 元妻はカネを借りたまま中国に帰ったかっこうになった。
 んが、
 十年後にきちんと数十万の謝礼をつけて返してもらったとのことである。
 折しも中国はバブルを迎えていた。
 その元奥さんは日本国内に高級マンションを持っているそうで。
 元夫であるところのSさんにそれを使うことを許しているというが、彼はそのプライドからなのか、あるいはしっかりと家賃は取られることになっていて、なお且つそれが払える収入状況にないからなのか、マンションには寄りつかないようにしているという。
 現在は第三者に管理をまかせて賃貸に出し、自身は家賃3万程度の郊外のアパートに住んでいる。
 むろんその家賃収入はSさんには入らない。

 
 話は、そのSさんことである。
 こと警備の現場ではあまりよろしいお噂のたたないお方で。
 無断で持ち場を離れて居なくなるということは、よく聞いていた。
 規制現場でトイレを我慢できず、規制車車内でレジ袋にうんこをして、それがまたタイミング悪く上司に見つかってしまったという漫画のような話もある。
 何をしでかしたのか、ベテランKさんに正座での説教をされたという話もある。
 しかも現場で。
 どうやらそのうえでお殴られになられたようで。
 当人は、会社に在籍しているうちは我慢するが「辞めた暁には……」といっちょまえに根に持つよーなことをのたまわりになられるのだ。
 たしかに癇癪もちのKさんではある。
 あたしも何度も怒鳴られた。
 無線越しなので何言ってるのかちんぷんかんぷんだったが、怒鳴られた。
 が、彼は理不尽なことではキレないことは確かだから、やはりSさんが何かしでかしたのに違いない。
 そしてそのコトの重大さがSさんには理解できないのだろう。
 教えても、叱っても、まるで噛みあわないとなると、うん。キレ癖のある人は、キレるわな。
 キレたってどうにもならんのだが。
 して、んなこた重々わかってもいるのだが。
 何度もキレて、それが良くも悪くも周囲に認知され続けることで、それが個性のいち要素となっちゃうと、理性のバルブなんかゆ〜るゆるになっちゃうから、いわば安直な圧抜きとして、まあそうするわな。
 状況の解決ではなく、圧を抜くことが優先。
 どうする、ではなく「怒っているんだ」という表現が優先。
 赤ん坊は、その空腹問題を自身の力で交渉・解決できない。
 てかその概念すらまだない。
 だから、とりあえず泣く。
 表現する。
 するとなんとかなっちゃう。
 だからまた泣く。


 話がそれた。



 誘導面でも彼の状況判断能力はヒジョーに拙く。
 正直な話、あたしも同じ現場ではご一緒したくないお人である。
 片交ならば御免こうむりたい。
 土下座してでも組みたくない。
 そしてこの度の身の上話も、脈略をまったく整理しないままにただただ話し続けるために、彼は情報を大混雑させてしまったのだった。
 そこからして彼の片交現場がどんなことになってしまうか、
 会話の交差点状況がどんなことになっているか、容易に想像できようというものではないか。
 なにより、聞き手の合いの手も、質問も受け止めないままに話し続けるのだ。
 ために、基本的に会話が噛み合わない。
 信号が赤だろうが青だろうが、行きたい道を行く。
 交差点状況などお構いなしだ。
  

 当現場ではついに「S先生」と、揶揄されることになってしまった。
 ほかでもない、揶揄したのはあたしなのだが……。
 基本的に彼は来た仕事はなんでも受ける。
 出来ない癖に。
 で何処へでもホイホイ行ってしまう。
 出来ない癖に。
 だもんだから会社も他の隊員がいやがる遠い遠い現場の仕事を平気で彼に与えている次第。
 出来ない癖に。
 よって日夜10連投なんてことは当たり前であり。
 出来ない癖に。
 この日も夜勤を終えるや、先生は渋谷から横浜の現場へと始発で向かわれたのであーる。
 そんな思いで働いて、たんまりとため込んだ勤務伝票をだ、事もあろうに彼は今週、どこかのタイミングで失くしてしまったのだから目もあてらられない。
 伝票紛失について、会社からはその処理もふくめて出頭を命ぜられた彼。
 事ここに至ってもなおコトの重大さがわからないらしく。
 たかだか伝票くらい、


「よきに計らえ」


 と屈託も無く笑うのであった。
 それでも会社にとって「便利な奴」であることは変わらない。
 連投を屁とも思わず、
 飄々と受けて、
 泣いて、笑って、ケンカして〜♪
 どっこい生きてるシャツのな〜か〜♪
 結果、稼ぎはあたしなんかより相当あるのであーる。
 聞けば、与えられる遠目の現場は、どれも「おいしい現場」とのことだ。
 問題は交通費を払って、その通勤時間を割いてまで働いて、はたして割に合うのか、どうか。
 そう考えると、やはり中古の原付バイクでも買って、遠距離の現場をちゃくちゃくとこなしているほうが得なのではないか、とも思える。


 さて、
 今夜はもんじゃの町である。
 朝まで冷たい雨のつつぐなかでの夜勤なのである。
 先生も日勤のあとに駆けつけてくださることに。






 ☾☀闇生☆☽