工事にともなう伐採中、太い枝をチェーンソウで伐り落としていた職人が声を上げた。
おおっ、びっっっくりしたあ。
騒々しいエンジン音と振動に襲われるこずえの中に一羽、鳩がうずくまっていたのである。
どうやら巣を守っていたようで。
職人は追い払おうとするのだが、頑として鳩は動かない。
仕方なく枝ごと伐り落しにかかるのだが、枝が幹を離れるまで鳩はじっと耐えていた。
枝が落下していくその途中まで鳩は巣を抱いていたのである。
すべての枝を失くした幹が引き倒されたころ、鳩は舞い戻って来て、そこに確かにあったはずの木を探して右往左往と拙いホバリングをはじめた。
近くの屋根から位置を確かめ、再び木のあったあたりに舞い戻り。
違う木からそこを望んで、また巣のあった辺りを横切って。
工事が済んでみれば、まるで木など初めからそこになかったかのように景色は澄ましこんでいるばかり。
西日の照るなか、見えない枝を求めて彷徨う鳩だけが、狂っているように思えた。
巣のなかに何があったのか、あたしは知らない。
鳩もきっと、知りたかっただろう。
☾☀闇生☆☽