壁の言の葉

unlucky hero your key


 考えてみると、浅草を知らないのだ。
 正確に言うと、あのあたりの下町風情というのか、そういうのに惹かれて歩くことはかつてあった。
 けれど、いわゆる観光スポットというのを見たことがほとんどないのであーる。
 雷門とか。
 浅草寺とか。
 浅草に限らずベタな観光スポットというものは、言わずもがな、いつも人であふれている。
 長いあいだ雑踏を苦手としてきたあたくしとしては二の足を踏んでしまう対象なのであーる。
 そしてこれもあたくしの性分なのだが、ベタな観光スポットというものは、スレているように思うのよ。
 あいつら見られ慣れているぞと。
 ベテランストリッパーの、おざなり芸のような風情をどこかに持っていやしないかと。
 具体例をあげると、先日訪れた江の島でも、なぜかしらONE PIECEのキーホルダーなんかをつるし売りにしてたりするのだな。
 巨大な一万円札とか。
 おもしろTシャツとか。
 エッチなボールペンとか。
 あの、やす〜い感覚。
 音の悪いラジカセから大音量で流れるHIP-HOPとか。
 ご当地感のまったくない、字義通りの子供だましだ。
 やっつけだ。
 ママがやんなっちゃうくらいに、子供はいちいちそれに気を引かれて立ち止まり。
 なんなら駄々までこねている。
 しかしまあ、それはいい。それはいい。
 これもまた愛すべき遊び感覚だとして、
 VOW的ユーモアだとして、
 あたくしにも面白がれるようにはなった。
 問題のスレた感じのそのコアというのは、実はその観光スポットのシンボルにこそしみついてたりするわけ。
 城を訪れれば、天守閣にはエレベーターで昇降できたり。
 コイン式の双眼鏡が設置されてあったりと。
 あるでしょ?
 武将のイラストの顔だけくりぬいた立て看版とか。
 

 実のところ上京したてのころに、雷門から仲店通り、花やしきへのルートは訪れたことがあった。
 けれど、月曜の平日の午前中ということもあって閑散としていた記憶がある。
 仕方ない。
 シフト的にあたくしのお休みがそこしか無かったのである。
 んが本音は、
 その、スレた感じのない無防備な楽屋裏のおねーさんの素の姿が、見たかったのである。
 

 はい。
 すけべなのです。
 とはいえ、いまはベタに日曜祝祭日しか休めないあたくしだ。
 ならばこのたびはそれも愉しんでしまえとアパートを出た次第で。


 大江戸線を蔵前で降りて、浅草寺を目指して北上と。
 するとまずお迎えしてくれるのが彼らだ。










 バンダイの有志たち。
 してまもなく正面に雷門だ。







 ど〜ん。
 やっぱ迫力ありますな。
 浅草のシンボルだけあります。
 交差点を渡る前にふとみれば、東京スカイツリーがそびえ立っているし。







 あのね、あたしゃこいつを美しいとおもったことは一度もない。
 でっかいボルトにしか見えない。
 武骨で、地味で。
 けれど、実際に近くで観てみれば、迫力はあります。
 迫力は。
 おおお、という。







 はい。
 ベタっぽいものをベタな風に撮って見ました。
 どうでしょう。
 やっぱ商店街とか屋台の方があれですね。
 面白い。
 この日も夏日とあってか軒を連ねた居酒屋なんか、昼ごろから大賑わいだ。
 呼び込みのおねーさんたちも大忙しで。
 いいなあ。
 おねーさん。
 いいなあ。
 日中の野外ビール。
 嗚呼、ひっかけたい。
 おねーさんは無理でも、ビールをひっかけたい。 
 けれど独りでああいうところに混ぜてもらうのは、さすがに尻込みしてしまうのだな。
 チキンなので。
 そこいくと外国からの観光客なんか、あれです。平気で独りビールかましてましたよ。
 スマホ片手に笑ってましたから、なんですか、ツイッターだかフェイスブックだかというので、どこかしらと繋がっていたんでしょうか。
 あたしゃ小腹がすいたので、これさ。







 屋台の唐揚げ『大』500円。税込。
 一番搾りを呑みつつ黙々と焼いている無愛想なおっちゃんに売ってもらいました。
 うま〜。
 肉、分厚いし。
 カップからこぼれそうだし。
 ビールが欲しくてたまらなくなったが、我慢と。
 眠くなっちゃうのよ。
 なので晩酌用にもうひとカップだ。


 そんな感じで、目的もないままに半日ぶらぶらしてましたと。
 印象にのこったのは人力車だね。
 ほんの数年前までは、廃れてたはずでしょ。これ。
 それが今は宣伝が功を奏してか。なるほど若いイケメン男子たちが、日に灼けた細マッチョな肉体も露わに、颯爽と行き交っていました。
 白い歯で快活に笑い、ガイドして、お客さんとのトークも盛りあがっているご様子。
 その話術もなかなかのもんです。
 力強くてやさしい青年が、汗にまみれて懇切丁寧にエスコートしてくれるのですから、ご婦人がたにとってはたまんないでしょう。
 プチ『ホストと店外デート』気分でしょう。
 ご盛況なようでした。
 対して、女性がひく人力車。
 あたくしが見たところ、客待ちしている姿しかなかったなあ。
 これは古臭い偏見なのでしょうけれど、男としては、夏日に汗だくで女の子に引いてもらうのはちょっと、なあ……。て人が多いのでは。
 といって、タクシーの場合によく言われるように、同性の客にとっての『安心感』やら『丁寧感』を売りにするのも、どうなんだろ。
 現にご婦人がたは青年の引く人力に集中してましたし。
 乗りつつなんかちょっと上気して半笑いでしたし。


 そこで思ったのですが。
 あれ、日本男児の伝統的アンダー、フンドシで車を牽くというのはどうでしょう。
 けつぷりぷりさせて目の前で若い男が自分の乗った車を牽くというのは、とりわけ外国のご婦人がたに受けそうだ。
 けれど、守られるべき下町風情としては、あやういのかな?
 かつてそんな人力があったとしても、おかしくはないよね。
 佐川急便の昔のマークは、フンドシの飛脚屋だったもの。
 人力の前身であるところの籠かきもフンドシだったような。
 え?
 あそうか。
 あれが変更されて今の、なんか非常口マークっぽい男に佐川のユニフォーム着せたのになったということは、あれか。
 やっぱダメってことか。
 

 って、あたしが残念がることもないのだが。


 
 じゃあ女性版は腰巻ひとつでやれってのかと。
 誰もやれって言ってないぞと。
 コントにしかならんので、お祭りのあの白い短パンみたいのでしょうな。せいぜい。
 それくらいはありそうですが。
 冷静に考えれば、あの手甲に脚絆という姿はどちらかといえば長距離向きなのでしょうか。
 草深い街道をゆく旅姿だわな。
 確かに機能性も高そうなので普段はもちろん、肌寒い季節には重宝されただろうけれど。
 メイドさんが牽く人力ってのをアキバ界隈でやらせたら、どうでしょう。
 唐突に言ってみましたが。
 それはそれでプレイになってしまう。
 あえてへこたれたりするんでしょうな。メイドさん
 車の後ろにはスポンサーの広告が下げられていたりしたけれど、あれももっと和風テイストを押せば面白そう。
 大相撲の懸賞がかかったときに土俵を流れていくあの幕のようにさ。
 ま、余計なお世話なのだが。
  



 んで、ただいまと。
 あ。
 そうそう。
 屋台の唐揚げ。
 夜にビールのつまみにしてて、ふと疑問を抱いてしまった。
 これ、なんの肉?
 唐揚げ=鶏という思い込みで買ったはいいものの、なんか違うような気もしてきた。
 屋台の暖簾には『唐揚げ』としか書かれてなかったはず。
 衣がパリパリに焼かれているのは、いい。
 これは、いい。
 しかも、ぱんっと張った肉の充実感。
 たまらない。
 けれど、食後感が鮭に似ているのね。
 ぷりっぷりに肥えた鮭の焼いたのを食べた感じ。
 見た目もたしかに肉なのに。鮭。
 いやなに、考え過ぎで、あたしが味覚馬鹿なんでしょうけれどね。
 ビートたけしがしてた浅草の話を思い出したのよ。
 かつてはおでん屋とか、いかがわしい肉を混ぜてたとかいう。
 でもね、美味いんだ。これが。
 






 帰りには京王稲田堤の鯛焼き屋『粉鉄(こてつ)』にて『クロワッサン焼き』を。
 税込200円也。
 パイ生地で焼いた鯛焼きって感じでしょうか。
 表面にはザラメが振ってあって、パリパリしてます。
 紅茶の欲しくなる逸品。
 うまし。
 パイ生地ぽろぽろこぼしながら、うましっ。
 ここはどんどんメニュー開発していて、頼もしい限りです。




 ☾☀闇生☆☽