壁の言の葉

unlucky hero your key


「そんなこと言ってたらぼく辞めちゃうよっ? いいのっ?」


 その怒声には、現場が、引いたね。
 指示された段取りの順番に、不備があって。
 変更した方が効率がよいので、実行部隊の下請けさんがそれを提案した。
 その返しが、それだった。
 自分がいなければ、現場が回らないと思っていたのか、この元請け職員は。と一同唖然。
 仮にそうだとしても、それを何故下請けと派遣とガードマンに発するの。
 俺らに云われても……、といった困惑。
 勝手にどうぞ、のひと言を全員が堪える。
 どうせ代わりが来るでしょ、と目配せで無言の共感。
 だれも取りなさなかったし、止めなかったね。


 んなこた、上司に言え。
 発注元に言え。
 








 切れれば、周囲が引く。
 それをして我を通せたと勘違いする人がいる。
 そういう輩は「またキレるよ」を担保している。
 有体に言えば、引くことで周囲はそれを甘やかしている。
 そうやって生き延びてきてしまったのだろう。
 





 四十歳。
 正社員だといふ。

 


 追伸。
 よく「感情の起伏が激しい」などと、言ふ。
 けれどこの場合は起伏が「せわしい」というやつで。
 いるでしょ?
 突っ込まれてかっとなってすぐ「んだこら、アホが。お尻ペンペンペ〜ン」みたいなノリで返したものの、相手が紳士的な態度を崩さないと見ると、途端に面従腹背慇懃無礼なまでに明るい低姿勢を……、うん、なんだろう。
 やらかす。
 別にいいが、こういうのの下で危険作業をしなくてはならない人たちの状況が、つらい。
 



 ☾☀闇生☆☽