壁の言の葉

unlucky hero your key


 はたしてあたしが煙草を吸わないからなのか。
 あるいはマジメすぎるのか。
 こういうの、ほんと残念な気分にさせられちゃうのだな。




















 現場ではあたりまえに見かけるものだけれど。
 それがいまだに「あたりまえ」としてまかり通ってしまっている現場なるものって、何よ。
 しかたなく中身を取り出して、空き缶ボックスにダンクすべく洗っていると、通りすがりの作業員ふたりにこうだ。曰く、


「なに(馬鹿なこと)やってんの?」
「マジメですねっ」


 首を傾げられた。
 内ひとりは他業者の職長である。
 この場の民主主義的扱いでは、二対一であたしの負けなのであーる。
 これだからいまだにある種の蔑視を買っているんじゃねえのかと。現場作業員つーもんは。
 根強い偏見の元になっているんじゃねえのかと。
 してそんなデリカシーの乱れっぷりが、呼ばなくてもいいクレームの温床になっているに違いないと。
 しかもかなりの高確率で、この不憫な缶たちは置き去りにされるのだわな。現場に。
 あえていえば『ひとんち』に。
 くわえてそんなセンスの奴らだから、弁当のゴミも置き捨てていくわけで。
 むろんバブル期とは違って産廃もゴミも規制が厳しくなってはいる。
 現場のゴミの分別も元請けがうるさく規定してはいる。
 回収業者も悪質なものは別途料金を請求する。
 場合によっては回収を拒否してくるくらいだ。
 けど、弁当ゴミと吸殻という個人の良心に関わるところは、どうしようもないのでしょうな。
 隙あらば他社の土嚢袋の底の方に突っ込むもの。
 混合ゴミ扱いというやっつけで。 
 んで、
 煙草も吸わず、自炊弁当のあたくしみたいのがそれらを片付ける羽目になると。
 あるいはそのまま空き缶回収ボックスに空しくダンクされることも当たり前になっているし。
 
 












 いまの現場は大がかりなのでやたら「検査」だ「安全パトロール」だと役所が出張ってきてチェックをする。
 けどこういうのを指摘されたというのは、今のところ聞いたことが無い。
 そりゃひとつひとつは小さいさ。
 けど現場全体から出る私的ゴミは施工完了までに相当な量になっているはずであり。
 そもそものところ、抜き打ちの検査が無い。
 聞かない。
 検査の日取りが決まると、総出で『見た目』の取繕いをはじめるのが恒例で。
 それは有体に言えば『片付け』であり。
 それが現場の印象を大いに左右するのは否定できないのだけれど、資材置き場をとりあえずシートで隠すという。そのために大量のシートを発注するというのもどうなんだ。
 検査員がそれをいちいちめくり上げてチェックしている様子も無いし。
 ましてや詰所のゴミなんて。
 隠れていさえすれば、見なかったことにできるということなのか。


 シロートとして参加している身としては、こう思う。
 こういう吸殻や弁当ガラといった小さな気づかいにこそ、作業への心意気が現れているのではと。
 手元のミクロが、公のマクロへとつながっているという意識。
 それがないから、時に手抜きとなるのではないでしょうかねえ。役所さんよ。
 バブル期に警備として携わった工事では、埋め戻し関係の作業ではそこへぼんぼん弁当ガラを放り込んでいた。
 それが強度に作用するのしないのということは置いといて、
 見えないとこへ突っ込めばいい、
 バレなきゃいいという感覚がいずれどこかに作用するのでは、という懸念。
 そういうのねえのかね。
 たとえば、現在スモッグ地獄となっている隣のバブル国では、正にそんなことになっていると思われ……。





 その会社の本性を知りたければ、玄関や受付嬢ではなくトイレやそのゴミを見るべし。
 








 ちなみにこの現場のトイレは最悪です。
 憎悪します。
 いや憤怒ならぬ糞怒そのものです。
 使用人数と許容量があまりに合わなくて、バイオトイレが大変なことになってます。
 おが屑のバクテリア処理がおっつかなくて、痛くて目も開けられない惨状。
 隣接するゼネコンの某有名二社のトイレはさすがに綺麗ですが。
 
 


 追記。
 いまの子どもたちって、学校でもゴミは分別させられるわけでしょ。
 小さいころからそれが当たり前になっているわけでしょ。
 昔の教室のゴミ箱は十把一絡げだったけれどね。
 はたして作業員の子供たちは、こんな残念な親たちをどう思っているのでしょうか。
 既婚者が大人であるとは限らない代表例といってもいいのではないでしようか。
 ましてやよそん家でのふるまいですよ。
 自宅なら勝手にすればいいけれど。
 ちなみにあたしに作業を教えた家族持ちもまた、こんな吸殻の扱いでした。
 これをしこたま事務所の机のなかに隠し続けて、そのまま別現場に移動していきました。
 だもんでどんだけエラソーな態度をとられても、ちっともこたえません。
 憐れみだけです。




 さらに追記。
 エロ屋時代、そのビルの内装業者が改修のために閉店後の店舗に入ったことがあったのだが。
 翌朝あらためると、トイレの洗面所の排水口に吸殻詰まらせてました。
 これも推理するに、空き缶を吸殻にしてて、上がり間際に飲み残しを捨てるべく排水口へ、ということなんでしょう。
 それでもあたしがマジメすぎるのか?
 繰り返し強調しますが『よそん家』ですよ。
 ましてや『客』のとこですよ。
 なるほど元請けがいくら厳しくしようともダメらしく。
 つまりが元請けが下請けを蔑むいくつかのポイントのうちのひとつなんでしょう。
 コンビニでよく目にするよね。
 ワンボックスの現場帰りのニッカポッカたちが弁当ガラをゴミ箱に捨てていくの。
 そのあたりの配慮まで含めてやっと、かっこいい『職人』になるんですけどねえ。


  


 ☾☀闇生☆☽