壁の言の葉

unlucky hero your key


 小澤城址を久しぶりに歩く。
 かつては麓の穴澤天神社の横から登れたものだが、いつしかその道が斜面の整備によって消えていた。
 よみうりランド側に新たに舗装された道から入る。
 地元里山の会の尽力によって整備されてはいるものの、この道は傾斜がきつい。







 遊歩道と呼ばれているが軽い散歩気分で足を踏み入れると、存外骨を折ることになる。
 鎌倉期から主を変えつつその時代その時代の勢力にそなえた城のあとだといふ。
 しかし天守閣と城下町を備えた中世以降に広まった白壁まばゆいお城のイメージはそこになく。
 また馬場跡や物見台跡、*1空堀り跡、井戸跡などが掲示版によって示されるのみで建造物は残されず、そして復元もされていない。










 よって城址として愉しむには想像力が試されることになる。
 地形からみておそらくは天然の要害を利用した砦といったところではないだろうか。
 連綿と続く多摩丘陵の小高い先端にあり、その尾根に敷かれた遊歩道の両脇は急峻な崖。
 なるほど騎馬で攻めるには無理があったに違いない。
 歩兵であっても相当につらく、城に備えていたという石を落とされればひとたまりもなかったはず。
 散歩コースは整備された道と、単に踏みならされた道とが曖昧で、またそれが愉しみどころでもある。








 全体の距離はそれほどでもないが、それらの脇道を散策しながら歩くと、いつしか時間が経っている。
 麓の三沢川に出て、案内板を手がかりに薬師堂を目指した。
 途中のファミマで買ったおむすびを店頭の公園で食し。
 看板猫の労をねぎらって。






 薬師堂を訪ねた。
 境内から急峻な階段が裏の山に続いていて、たどってみるとそこもまた整備された遊歩道になっていた。
 ところが、次第に木の根に道が蝕まれ、階段も失せて、踏みならされた段差をたよりに笹にしがみついておりるような崖にさしかかる。










 と、そうなるとムキになってしまうのが男の性というもの。
 軽装ながらチャレンジしたのだが、あえなく行き止りを喰らってしまった。
 フェンスが立ちはだかって公道との境界を成している。
 道を挟んだ向かいは民家だ。
 しぶしぶ引き返したのだが、あの道はいったいなんだったのだろう。



 ☾☀闇生☆☽

*1:その昔、城にお堀がないのはおかしいと歴史家たちが批判した映画がある。黒澤明『乱』。それを黒澤組は「山城だからお堀がないのはあたりまえだ」と反論(『黒澤明と仲間たち』東宝)した。しかし、この城跡から見るに、念には念をの謂いで掘った城もあるにはあるのがわかる。