アガサ・クリスティー著、堀内静子訳『ABC殺人事件』ハヤカワ文庫 読了
不肖闇生はミステリーや謎解きものが苦手である、とはこれまでに書いたことがあっただろうか。
推理物マニアの旧友氏には何度もそれを告白しているのだが。
しかもコンプレックスとして。
犯人はお前だっ、的なノリにあまりそそられない。
トリックがどーしたこーしたにも興味が無い。
有体に云って不感症なのであーる。
しかしながらあたくしの好きな作家や映画監督は、ことごとくミステリー好き、推理物好きという、なんだろう。不幸?
司馬遼太郎が『警視メグレ』好きで、後年までよく読み返していたと知ったときは、どうにもこうにもふられちゃった感に苛まれてしまったものである。
たしかに、言われてみれば新撰組をあつかった短編『壬生狂言の夜』というのが、ミステリー仕立てだった。
『罪と罰』だって、構造はそうじゃないか。コロンボ式の、まず犯行を描いてからそれが追い詰められていくのを描くというスタイルだ。
まあいい。
そんなこんなで、その克服に古典的な名著をみつけると読むように努力はしている次第。
どうも本というものを理屈の頭で読んでいないらしく、それだからこういった仕掛けにそそられないらしいのだ。あたしのオツムってば。
詩、のような一瞬を欲している。
まあ、んなこたいいんだ。
で、本作。
さすがにミステリーのネタバレ感想などやらかさないが。
Aのつく街で名前にAのつく人が。続いてBのつく街でBのつく人が。といった具合にアルファベット順に予告殺人が行われていく趣向。
こういう仕掛けをミッシングリンクというのだそうで、本作はその古典ともいえる完成形なのだそうな。
よって以降のミッシングリンク物は、これの焼き直しともいわれるほど。
して、それを追うのが彼の名高き名探偵ポアロであーる。
人物への洞察が鋭いね。
仕掛けそのものよりも、世に浮かばれずに生きる者への作者の眼差しが感じられた。
映画『仕立屋の恋』を思わずにはおられない。
☾☀闇生☆☽