壁の言の葉

unlucky hero your key


 それはケービの現場からの帰り道のこと。
 サイクリングコースを自転車でひた走りながら、口笛でこのメロディをなぞっていた。







 はてなんだったっけこの曲、と。
 まさかゲームのBGMだとは、
 それもプレステ1のだとは鼻毛の先ほども思わずに、
 その足で立ち寄ったBOOK OFF。
 あたしゃこのゲームを手に取っていたのだな。
 にもかかわらず、
 それでも頭の中のメロディとゲームがつながらない。
 そういえばこれ、
 クリアしちまうのがもったいなくて、ラスボス直前で止めたままだったと。
 おもえばそんなヘタレだったと。
 ふと値札を見てみれば500円じゃんか。
 それじゃあってんで中古で買いなおしてしまいまして。
 んでんで、
 さっそくプレイして、この曲とめでたく再会とあいなったわけ。


 どうせなら隠しボスも全滅させて、
 と全クリをたくらんだのがいけなかったのだ。
 なんてことも思い出したり。
 ステキとはつまり、欲張るとたちまち逃げてしまうシロモノらしく。
 して、
 頭に音楽だけが取り残されたのね。
 いわばステキの抜け殻として。
 

 このゲームの音楽といえば、かっちょいいオープニングテーマばかりが取りざたされるけれど、こっちのほうが肌に合うのな。あたしのばやい。


 そうそう。
 欲といえば、
 本職エロDVD屋の方では年末ジャンボが話題になることが多い。
 思えばそんな季節である。
 それも当たったら何を買う、何をやるといったベタなおしゃべりで。
 まあだいたいが遊びたいという方向ですわな。
 あたしゃこういうのあまり興味がない。
 といったら嘘になるかしれない。
 かっこつけちまったかもしれない。
 んが、
 高額当選者の哀れな末路というのは、ネットでも散見できるわけであるからして。
 さもありなん。
 たしかに、すべてがすべて落ちぶれるとは限らないだろうけれど。
 金持ち、
 それすなわち幸福であるとも思ってはいない。


「お金を使うってのは才能が要るんだよ」


 これは黒澤明宮崎駿との対談で口にした言葉で。
 しかも映画製作に関してのことであった。
 製作費が巨額だからって、それをきちんと効果的に使うのには才能が要るのだ、とね。
 ならば個人の資産もそうでしょ。
 使うも活かすも才能が要りますって。
 あたしにはそれが、おそらくは、無い。
 能がない。
 勉強してどうのこうのってもんでもないと思っている。
 

 またかっこつけた。


 え? 
 ついてない?


 まいいや。
 なんかね、
 仕事辞めて遊んで暮らすっていったって、遊びの才能がそこまで追い付かないんじゃないかと。
 仮にだ、
 笑いのある暮らしを仕合せだとするならば、
 それこそ枝雀のとなえた笑いの法則『緊張と緩和』理論じゃないけれど、
 ドンペリの風呂につかってオンナをはべらす日々よりも、満足のいったひと仕事のあとの缶ビールのほうがうまいんじゃねーの?
 ぷはあああっ、んめえ。つって。
 ドーパミンどぴゅどぴゅいわして。
 とまあ、そんな貧乏性をおくせよ、
 遊んで暮らすというのにあこがれるということは、
 日々それほどまでに仕事を厭々やってんのかい、とも思う。
 黒澤ついでに触れるならば彼の『生きる』の印象が強くって。
 主人公は余命いくばくもないことを知って、ただ時間をつぶすだけだった人生をあらためようと。
 いや、取り返そうと、不器用ながらも遊びをはじめるのね。
 でも、どれも楽しくない。
 心の底が満たされない。
 んで、
 生きがいって、なんじゃらほいと。










 そういうこった。
 






 雪の降りしきる深夜の児童公園。
 ひとりブランコに揺れて。
 つかのま、
 頭の中のメロディーを口ずさむのに、
 貧富も、才能の多寡も、きっと無いのだ。







 ☾☀闇生☆☽