壁の言の葉

unlucky hero your key

かっけー人。

 その、
 いっこうに鳴りやまない大歓声に対してなのか、
 はたまた腰の下から執拗に煽りたててくる極上のベースラインに、なのか。
 男はその長い手で真っすぐに天を指してこたえるが、
 そのくせ顔はふせたまま、自らの足元をみつめて静かに微笑んでいる。


 わかっているよ。
 そのアツイ気持ち、ハートでちゃんと受け止めてるよ。


 ならびのいい歯が影のなかに白く灯り、
 同性さえも蕩かせる笑顔が、
 引きしまっているのがわかった。
 凛としたその立ち姿。
 やがて――、
 男は手を挙げたまま二度うなずくと、
 やおら踵を返すや、停車していた車列に誘導灯を振るのだった。


「おまたせしましたっ。お進みくださーいっ」


 とまあ、
 さながら矢沢永吉なのである。
 そのベテランケービ員さんは。
 かっけーんだ。
 文句なしにかっけーんだ。
 常に笑顔を絶やさず、
 なおかつ引きしまっていて、
 職人さんたちの呼吸を読んで、いそいそとお手伝いまでするのに、少しも媚びず。
 下卑ず。
 強烈なナルシズムもまた、周囲を愉しませるためにあるのだと。
 つまりが永ちゃんなのだと。
 ありえんよ。
 ケービ員であのたたずまいは。


 ちなみに、
 あたしも頑張って半日ほどまねしてみた。
 んが、
 ほっぺたがつりそうになった。
 どういう精神的な鍛錬によるのか。
 敬服に値するね。
 脱帽だね。
 気持ちのいい男、とはああいうことなのだね。
 

 にしてもだ、
 ときどきすごい人物に出会う。
 この仕事。
 本気で人材を探したいなら、
 ケービ員やってみたら、なんて思ったりするほど。
 会社ごとの社風にもよるのだろうけれど、
 リーダークラスのなかには、日雇いケービ員にしとくのがもったいないような人が、ちょいちょい居るのだ。








 夏の空に、
 キース・ジャレットのトリオものが映えるね。
 キースのピアノはむろんのこと、
 ゲイリーのペースソロの、あの透明感たらないよ。
 まったく。














 




 みんな今日もおつかれっ。
 なんであれ、乾杯でしめよう。





 ☾☀闇生☆☽