クリストファー・ノーラン監督作『インセプション』DVDにて
以下、
ネタバレでいく。
産業スパイも進化を極め、
もはや他人の頭の中にしかないアイディアや暗証番号までを盗み合う事態になっている、のだそうな。
となれば、記憶の植え付けやその言動を左右する暗示までが可能というわけで。
いやなに、
この映画の世界では、ということですよ。
他人の夢の中に潜入し、それらを行うプロの集団がいるという趣向でなのあーる。
んで、
より深層心理に近づくために夢の中の夢、
の中の夢、
の中の夢、
の中の夢、
……へと、彼らはダイヴを繰り返すのだという。
さながら迷宮都市を地下へ地下へと下りていくように。
その階層状の世界観が実に愉しいのだが、それは別にこの映画ならではの独自性ではないのだと思う。
この手のモノは小説なんかの方がより詳しく、さらに複雑に描けるのではないだろうか。
描いてるだろう。
けれど、
この、いわゆる夢の階層構造を降りていくごとに、
たとえば現実の二秒が夢の中では二分に。
さらにその夢の中では二十分に、
二時間に。
という具合に時間が引き延ばされていくという、ひとつのルールと。
上層階での出来事が下層階へと影響する関係性などが『あくまで映画的に』、なおかつ簡潔に表現されている点は、素晴らしい。
つまりセリフによる説明だけには頼らず、
あくまで光と影と音の、時間の芸術としてということね。
それはそれはお見事だったわ。
で、
この階層世界を整然と行き来するだけのスパイ物に終わってしまっては、物語はこのジオラマの解説に尽きてしまうわけで。
そこにウイルスとして、主人公のトラウマ。妻の記憶を放り込んだのに違いない。
蒸留酒ではすっきりし過ぎるので狭雑物をと。
せめてアテをと。
今日はもう酔わせてよんと。
夢から夢へと遊び歩くうちに、次第にこの現実がはたして本当に現実なのであるかを疑いはじめる妻。
ここもまた夢の階層構造の下層階のひとつではないのかしらと。
どーなのよと。
これは映画『マトリックス』などのツカミと同じやつで、ヴァーチャルを取り上げる際の基本技なのだな。
んが、
そこはあれだ、後から作られた本作の方がひとつ上手といえよう。
際限のない階層構造。これが彼女の不安を底なしの絶望に仕立てているわけね。
して、
SFというのはあくまで手段ですから、
哀しいかなスタイルですから、
観客の童心は、
本当はそのスタイルだけで日の暮れるのも忘れて無限に遊んでいたいのだけれど、
いつかは終わらなきゃいけない。
ごはんよー、と現実が呼んでいる。
なので、
妻がらみで落としどこをこしらえて、結果として恋愛映画ということにしておきましたといったところだろう。
そういうことです。
妻との関係とか、
社長と息子の確執と和解とか、
ひとつひとつはこれといって特異なものではないし。
構造的にややこしいとか言う人もいますが、んなこともない。
子どもの頃に誰だって妄想したはずだ。
夢の中の夢くらいはね。
基本的にはそれを描きたかったというところからこの映画は出発しているのだろうから、童心であたればいいだけのこと。
ついでに、
潜在意識の中核が厳重に武装されているのが、なんといおうか、ベタ過ぎてちょっち笑ってしまった。
必死かい、と。
それと、
理性や倫理感の薄れているはずの夢の下層部にもかかわらず、エロ要素が少しも出てこなかったのは、ちょっと疑問。
といって、
じゃあそれを出せばいいのかと言われれば、ノーラン節ではなくなるし。
少なくともそこにも理由づけをしてくれると、よかったかな。
二度目を観たら、
冒頭での妻との会話「飛ぶ」のどうのといったくだりの意味がわかった。
最初は『タイタニック』のパロディかと思ってしまったよ。
それはともかく、冒頭の妻は悪戯っぽく。
レオの接し方も後半とはまるで違ってるように感じた。
☾☀闇生☆☽