シリーズの第何作目のことだったのか、
 あるいはどんなエピソードの、どんなシチュエーションでのことだったかはこの闇生、残念ながら憶えてはいない。
 けど、
 そこで語られた死生観が、えらく印象に残っていることは紛れもないわけで。
 なんせそれは寅さんの、寅さんによる、死生観だもんで。
 明るく楽しく影の無い古きよき日本のお正月のイメージとワンセットであるところの、あの寅さんだもんで。
 油断していただけに、鮮烈だった。
 曰く、
 この世は巨大なトレイだと。つまりがお盆のようなもので。
 そのへぎゅうぎゅうにひしめきあってみんな立って居る、と。
 んで、
 たまたまその端っこに押し出されちゃったやつが、
「おいおいおい押すなよ。押すなってば、もお」
 だれが押したというものでもない、いわば群集の蠢動のような、そんなちょっとした波にやられて落っこちてしまう。
 人の死やら不幸なんてもんは、そんなあっけないもんだと。
 多くの場合、誰が悪いというわけでもないのだと。
 確か、凹んだヒロインだか脇役だかをなぐさめるような流れでのことだったはず。
 その言葉はホンを書いた山田洋次のでも、
 はたまた演じた渥美清のでもなく、
 それは見事なまでに寅さんの死生観として感じられた、と思いたいところなのであるが。
 さにあらず。
 そのときの印象は、寅さんの口を借りて俳優渥美清が自らの死生観を語ったような、そんな違和感。
 それは、
 ともすれば演者と登場人物を同一視してしまいがちなこのシリーズにおいての違和感なのだが。
 寅さんが、あんな御前様のような悟ったようなことを言うのはおかしいと。
 だからといって決してそのくだりが映画にとってのマイナスには働いていないという不思議な。


 でね、


 これもまた面白いもので。
 この江戸っ子らしいあっけらかんとした死生観も、視点を変えるとまるで変わってしまうものなのだ。
 とどのつまり、この世はすべて加害者だ、と。
 ね。
 俺も、てめえらもみんなみんな人殺しじゃねえかと。
 そのまんまん中に陣取ってのおのおと鼻毛を伸ばしておるやつらめっ。
 ……と憎悪をたぎらせる人たちも、
 そんなもんだよ、と笑う寅さんも、
 どちらも同じお盆を見ているのよ。

 
 たかだかアングルのとりかた次第で、
 居場所の風通しというものは変わるのだ。






 うん。





 だからどうした、なのだが。
 うん。
 そう簡単には換えられる視点でもないのだが。
 うん。



 ☾☀闇生☆☽