どの付くほどの新人さんと組んだケーピの現場だ。
 彼もまたダブルワーク。
 おそらくは同年代か、
 あるいはご年配か。
 それはさておくとして、
 プライドなのか、なんなのか、
 慣れたそぶりをするのがいただけない。
 あれはやっちゃいかんですよ。
 あたしだってそんなに経験を積んでいるわけではない。
 少なくともその日その日の勤務ごとに反省点がひとつは起こるレベルだ。
 丸一日片交やってれば、注意力が散漫になる瞬間が必ず一度は訪れると。
 それを自覚することによって、少ない能力をどうにかやりくりしている。
 そんな程度なのだが、
 その現場では明らかにその人よりは経験者なわけ。


 でね、そのお方。
 あからさまに要領を得ないご様子なので、その要領を教えるわけだわね。
 このあたしがよ。
 こういう合図の出し方は明確でないから、こうしてください、とか。
 車両と自転車が現場でかちあいそうなケースの誘導の仕方だとか。
 その日の職人さんたちの作業内容とか。
 もろもろよ。もろもろ。
 新人だろうがベテランだろうがこの仕事は『基本的に』ギャラは同じだもんで、あたしゃできるだけこうして丁寧語で接するわけ。
 したらこうだもの、


「そうですねえ」


 他人事かと。
 なんだよそれ。
 もお、がっくしくるわ。
 案の定、ぬるううい交通状況の片交なのに、なんども滞る瞬間が勃発する。
 だもんでその都度駆けよって教えるのだ。
 んで、


「そうですねえ」


 もおね、
 あほくさい。
 現場状況のひとつひとつを凝視していたのでは間に合いませんと。
 いつ合図や車が来ても対応できるように、常に全体を眺めて把握してくださいと。
 まずあたしを見てください。
 三叉路の真ん中で、身体をゆらしつづけてますよね。
 常に周囲を視野に入れとくために、そうしているわけです。
 踊ってんじゃないんですよ。
 で、それができてないから繰り返しそこをアドバイスするのわけなのね。こっちは。
 そのたび走って行くのよ、あなたのもとに。
 これはかつてここでも触れた宮本武蔵の『見』『観』の極意で、
 ケーピ以外のあらゆる状況判断にも応用できる物の見方なのあーる。
 おほんっ。
 と、
 そこまではさすがに言わないし、
 のたまうヒマもないのだが。
 たとえ副業であったとしても、お給料分は活躍しようよという話である。
 活躍しよう、としようよ。
 どうせなら本業に活かせそうなことを模索しよう、としよう。
 しようと、しよう。
 まずはともかく観察しよう。
 先輩をさ。


 あなたがデキナイから、
 こっちは交代での休憩も半分にして付きっきりになってるのだ、ということに気付こう。
 くどいようだが、おなじギャラですぞ。
 あたしにも新人時代があったのだから、それを恩着せがましくするつもりは毛頭ない。
 組んだ先輩にはご迷惑をかけた。
 んがんが、
 せめて、
 せめてね、
 自分の休憩を早めに切り上げて、
 その一服のあいだに自分の担当現場を先輩はどうこなしているのか、それを見に来るくらいせえよと。
 権利とばかりに休憩ばかりは規定どおりにとりよって、
 それでいて仕事は半人前という現状を恥じようぜ。
 

 現場上がりにデキナイ新人にお残りさせてトクトクと説教する先輩が、かつていた。
 ついでに言えば年下だ。
 けど、
 あたしゃそこまで優しくなれない。
 そんな労力まで使う義理もない。
 有体に言って、冷たい。
 なのでお説教屋さんは本当に大したもんだと思う。
 今後、組むかどうかわからない人に対して、そこまでするのだわ。彼らは。
 あくまでケーピをいっときの腰かけとしているヤツにまで、転職後を気遣って説教する。
 ケーピくらいできないんじゃ、よそでも通用せんだろにと。
 けどね、
 終了時間を気にして時計ばかり見ているやつに、そんな気遣いはあほらしいっつの。
 あいつ、そのうちきっとよそで恥をかく。
 んで怒鳴られる。
 悪ければ、事故る。














「そうですねえ」







 たぶんもう同じ現場で組むことも無いだろうから、
 あがり間際に早口で心構えとアドバイスを繰り返すまでにとどめておいたよん。







 ☾☀闇生☆☽


 受け答えの癖は、
 歳をとるほど直らなくなってくる。
 人の振り見てなんとやら。
 自戒をこめておこう。

  
 追記。
 信号や交差点がらみの片交はとくにそうなのだが、同時進行の複数のことを意識して瞬時に優先順位をつけられない奴と、リズム感のない奴には無理だね。
 リズムガイド無しにブレイクをきちんと取れるヤツでないと。
 たとえば、
 飯屋の厨房も、そういう能力の連携で成り立っている。

 
  
 さらに、
 ついでに言えばこの「そうですねえ」遭遇は二人目なのである。
 もうひとりは若い学生臭のぬけない女の子であった。
 固くならないようにと気遣うこちらの物腰がゆるすぎるのだろうか。