その女性はいつも遠慮がちにカウンターの端に陣取っている。
注文した酒が来るのをひとり静かに待っている。
やがて酒が来るといたずらっぽく微笑み、
ストローにちょっぴりと口をつけ、
ひと息ついて、
ゆったりと店を眺め、
他の客を見るともなく観察して、
カウンター越しに青年の接客をやわらかく見守る。
そして、手のすくのを見はからっては彼に声を掛け、他愛の無いやりとりに笑い、ときにジョークで応え、ふたたび共有すべき話題を求めて視線を店内に遊ばせる。
すまん。
断わっておくが、
酒はカクテルではなく、パックの焼酎であり、
椅子は、蓋をした老人用カートであり、
同時に彼女のマイカートでもある。
そこはバーではない。
コンビニなのだ。
とどのつまり青年はアルバイト君で、
レジ打ちや品出しをこなしつつ、ご婦人の相手になっているというわけ。
むろん、そこは若い彼のことだ。
ゆえにそれをむげに拒むわけにもいかず、
といって、立場上がっつりと話し込むわけにもいかず、
実際問題として仕事のほうから急いてくると。
だもんで働きつつ耳を貸し、横顔で相手になってやっているという按配。
有体に言って無愛想に話半分に受けている。
それはきっとわかっちゃいるのだよ。彼女も。
煙たがられているだろうことは。
だもんで、接客の邪魔にならんように。といってもすでに充分に大胆な占拠行為なのではあるが、止むに止まれぬコミュニケーション欲を、ささやかな酒の魔法を借りてはそこで済ましているのだろう。
これ、
老女と青年店員だからまだギリギリなのだろうな。
老人と女性店員では、あからさまに嫌がられる。
おっさんならつまみ出されるに違いない。
技術がすすめばすすむほど、ナマは遠のくといふ。
いやいや、
孤独を怖がっちゃいかんよ。
それを嗜んでこそ知性だろうが。
んが、
それもまたナマの社交の場で蓄えてこそ、磨かれるものだったりする。
にしてもね、
コンビニで独り酒だもんね。
女は強し。
あたしにゃこういう大胆さはないからなあ。
☾☀闇生☆☽
青年よ。
映画の一場面でも観るように状況を客観せよ。
愉しんでしまうがよいぞ。
誰かさんのようにカッとなって壁蹴って穴開けたりしちゃだあめ。