NODA・MAP番外公演
 野田秀樹作・演出
『表にでろいっ!』東京藝術劇場 小ホール1にて

 出演は野田秀樹
 中村勘三郎
 そしてダブルキャストとして、
 黒木華太田緑ロランス
 あたしが観たのは黒木の回。


 まず圧倒されるのはその高度なテンションである。
 イッちゃってるのだ。
 いやテンションを狂人のごとく上げなければやってられないような、そんなバカの連続なのだが。
 そもそもバカというものは、突き抜けなければ笑えないシロモノであり。
 にもかかわらず、
 世間の冷笑癖に引きずられたのか、
 あるいはそれを先導したのかわからないが、
 テレビではダウナーな笑いがもてはやされ、
 対してアッパーな笑いは撤退するばかりである。
 いや、
 撤退というか、
 なんというか、
 それらはみなスベリ芸という、ある種の保険に収束されるのが風潮で。
 スベッて、
 間があいて、


 あれ?


 みたいなことで、ともかくも笑いにしておく。
 それもスベれば、また間を置いて、


 あれ?


 的な。
 それは日常でのコミュニケーションをも汚染して。
 例の『すべらない話』とは、それを禁じる意味での『すべらない』であったと、闇生は解釈している。
 周囲の聞き手のリアクションも含めて、スベらせない。という。
 笑いの現場はアレに飽きちゃってるのね。
 一種の逃げだもんで。
 手抜きだもんで。
 がっつりとした笑いができない風潮に、本物のプロたちは苛々してるのではないだろうか。


 話がだいぶそれたようですが、
 それは演劇のほうにも影響していて。
 なにかとそっちに逃げるのを目にする。
 そこへきて逃げない笑い。野田はそいつをがっつりとやってみたかったのに違いない。




 以下、ネタバレ込みで。






 お話はいたってシンプル。
 とある能楽師一家の親子三人+一匹におこる事件で。
 三人が、それぞれの価値観の違いをもとに敵対し、束縛し合い、ドタバタの大喧嘩を繰り広げる。
 その日、
 父は何を置いてもアミューズメントパークに行きたがり。
 母は少年アイドルのドーム公演に行く予定。
 娘はというと、
 ファーストフード店が売り出す限定オマケを求めて徹夜で並ぶつもりと。
 けれど、
 臨月を迎えた飼い犬のために誰かひとりは留守番をしなければならない。
 お前が残れ、
 お前が残れと。
 互いが互いの趣味を口汚くののしり合うのだ。
(マックのCMに出演している勘三郎がファーストフードを親の敵のごとくののしるのが、おもしろい)
 発端は、
 自分にとっての最大の興味が、
 他者にとってはゴミほどの価値ももたないという、日常頻繁に出くわす壁である。
 あるでしょ。
 ひいきのアーティストのコンサートに行きたいのに、親が理解してくれないとか。
 こないだもガンプラを捨てられたことを恨みに自宅に放火した中年がいましたが。
 けどその壁もまた実は個性の一面であり、外殻。輪郭なのですけどね。


「誤解は、理解への一歩である」(野田秀樹)
 ほお。
 ならば、逆もまた然り。(闇生)
 

 ともかくだ、
 終盤になって娘が実は新興宗教にハマってることが明らかになってくるあたりから、
 ほらな。
 といつもの野田の重さが出てくると思いきや、
 それほどでもなく、
 いや、考えれば深いのですが、
 最後までバカを通したのは、あっぱれだ。
 清々しい。


 ちなみにこの娘がハマる新興宗教。
 前作『ザ・キャラクター』で扱われた書道教室なので、
 そういう意味でも、番外編といっていいかもしれない。
 なに、今風にいえばスピンオフってやつ?


 笑って笑って終わってみれば、
 正味七十分だった。
 けど、濃いのよお〜。
 んで、
 ついでながらのたまっちまえば、
 こういうアッパーというのは、ナマならではだからね。
 放映されたのを見ても、ピンとこないでしょう。





 観客の棲まう日常や現実へのコントラストとして、
 舞台は常に『狂』であるべきなのだ。
 むろんぎゃあぎゃあ、ドタバタばかりが『狂』ではないことくらい承知の介なのであるが。
 でもって『狂』にも静かなのや一見して平凡に見えるものまでさまざまな表現があるはずなのだが。
 この手の全うな狂気を、
 おっさんが全力でつらぬくという。
 そこだ。
 そこがなによりの狂気。 
 勘三郎のイキっぷりに脱帽せよ。






 あああ、おかしかったあ。


 ☾☀闇生☆☽


 ついでながら、開演前。
 トイレ前の通路で柄本明と遭遇。
 はて、俺はどちらから来たんだっけ、と迷う致命的な方向音痴のあたくしをよそに、茫然と佇立しておられた。
 んが、
 ぼおっとしてこその柄本である。
 さすが、見事な佇まいでした。


 後半、勘三郎はむせ続けていた。
 気管になにか吸い込んだのか。
 技術でそれを封じ込めようと、あがいていて。
 いやがうえにもドタバタが死に物狂いになった。


 さらに追記。
 一家そろって自宅で遭難したことが明白になり、その時間経過が展開される後半。
 野田の代表作『赤鬼』を連想するだろう。
 え? そっちに行っちゃうの? 
 という緊張感をテコにして、
 ドタバタはやっと終焉をむかえることに。
 あたくし的には映画『SAW』も連想してしまい、
 そんなこんなでこのまま笑いで済むわきゃないぞと、
 残虐なとこへ持っていくに違いないぞと、
 期待と怖れを抱きつつ、笑ってました。
 自宅で遭難。
 『やっぱり猫が好き』にも、そんな一話があったっけ。
 舞台は高層マンションの一室。
 オートロックのベランダで三姉妹が、という。
 あの話では手元にネギが1本というシチュエーションでした。