振り向けば、そこに僕がいた。
むろんそこの君でも、
彼でも、
彼女でもなく、
このあたしがそこにぽつねんと、目の前に立っているのだ。
素っ裸で。
へらへらっとして、
ぶらぶらっとさせているものだから、
くらくらっと驚愕した次第。
んが、
そういうときは、
とはどういうときなのかわからんが、
ともかく日本人特有のリアクションとして、
えへ。
意味もなく照れ笑いを返すほか術がないわけで。
術などなくともそいつ、というかあたしは依然としてそこに居るわけであり。
ならば、
どもっ。
とりあえずは、こちらはそちらに害意はないですよというお人よしアピールにとどめておいて、やる。
ざまあ。
とどめはしたが、事態が事態でなのあーる。
いやが上にもこのポンコツ頭は、ポンコツなりに回転を強いられるわけであり。
目の前には、他でもない自分が、それも素っ裸でいる、というこの現状にいたる経緯に妥当な回答をポンコツなりに導き出すわけであり。
つまりが、こいつ、抜け出してきたのだなと。
どこからと言えば、それはあれだ。ひとつしかない。
農場。
要するに肉体のスペア用クローンを飼育、保管する農場から逃げ出してきたのに違いない。
ならば、すでに警察その他の権力機関による非常線が張られ、厳戒態勢が敷かれているはずであり。
おっつけこの我がスペア君は捕獲され、農場へ連れ戻される。
などと考えるまでもなく、急展開だ。
立ったのだ。
そいつの、
つまりがあたしの、
そいつの、
ナニが、
勃った。
はちきれんばかりに。
そのうえでのっしのっしと距離を縮めてくる。
ちょっ、
ちょっ、
ちょっとお。
俺は、お前だからよくわかる。
わかるぞ。
お前がこの俺なんかでは、そのお、あれだ、下半身的に満足できないことを。
して、立て続けにいっそ、そのいきり立つそいつを萎えさせんとして、こんな言葉でたたみかけた。
そういやお母さん、
どうしてんだっぺな。
どうよ。
自家製梅干し、もうなくなっちまうべ。
送ってもらわねえと、だめだっぺっつうの。
と訴えたが、返ってきた言葉が哀しい。
言葉というには、あまりに空しい。
てか、言葉が異なる。
国際的に、お隣近所の言葉なのである。
そうか、
民営化にともなう農場経営の人件費やら経費ダイエットの関係で、拠点はアジアの某国に移されてあったのだ。
その国の言葉で飼育されてきたと。
お前は、ほんとに俺か?
俺はほんとにお前なのか?
さて、
見た目はまるっきり自分であるのに、まったくもって言葉の通じないあたしがあたしを襲いにかかるという。
よりによって欲情しているという。
なにより潜在的運動能力は同じであるはずなのに、現状として筋力が違うと。
それは、日々のメンテナンスの質に、
して量に、
圧倒的な格差があるということの証左であり。
むんずとこちらを掴んで、おらおらと攻め込んでくると。
ちょっとたんま、たんま。
そのたま、たんま。
だめ、
やめてっ。
いったい某国の農場で何を教育されてきたのよと、
思いつつ、
防ぎつつ、
のたまいつつ、
また防ぎつつ、
たま防ぎつつ、
なるほど、さすがは自分の分身で、
一般に通じる手練手管、といえるほどのモノは持たないものの、
自分のツボは心得ているのだなと、感心しつつ、
んで、
そこはいかんと呆れながらに、
だめっ。
だめだっつうのっ、と拒むさなかに、
目が覚めた。
☾☀闇生☆☽
いい年ぶっこいて、
こんなんですまん。