リドリー・スコット監督作『アメリカンギャングスター』DVDにて


 まず中間マージンをできるだけ省くこと。
 して商品をすべて産地直送にしてしまえば、新鮮で質の良いモノを、より安く売ることができる。
 おそらくこれは商売の基本なのだ、と思う。
 んが、
 まさかもまさか、
 なんとベトナム戦争を利用してこれをやった男がいたというのだな。アメリカに。
 つまり戦地の軍人を買収してだ、
 麻薬の産地直送を、よりによって軍用機でやってしまおうという。
 なんちう大胆な。
 まずこの発想のスケールの大きさに、呆れた。
 しかもこれ、実話をもとにした映画であるというのだから。
 その男、フランク・ルーカスという黒人。
 ハーレムを牛耳るボスの運転手にすぎなかった彼は、ボスの死後、そのシマを引き継ぐやブツの産地直送をおっぱじめた。
 なんせブツは直送であるからして、あいだに入る輩が不純物をまぜる心配もないわけだ。
 純度は百パーセント。
 なおかつ価格は市場の半分である。
 最高の品質で、他より安いとなれば売れないはずがなく。
 Blue Magicと名付けられたそれは瞬く間に信頼のブランド名と化して、裏社会を席巻することになる。
 これにより巨万の富を得、やがてマフィアすら脅かすほどのし上がる麻薬王フランク。
 地元の警察には賄賂をばら撒き、
 マフィアとは販路の協定を結んで、
 片田舎で慎ましやかに暮らしていた家族を呼び寄せるや、売買を家族経営に仕立てあげた。
 ようするに血縁の結束と、賄賂の利害でもって、流通の保全を強化したわけ。
 一方、
 突如として街に蔓延したこのBlue Magicに目を付けたのが、特別麻薬取締局のリッチー・ロバーツという男。
 この男はひと口に言って『セルピコ』といっていい。
 警察内部の汚職と単身闘った実在の刑事、セルピコ。
 正義のために孤軍奮闘する彼の闘争は、のちに映画にもなったが、同僚からすればこれほど厄介な堅物はないわけで。
 リッチーもまた実在の男であり、
 その正義感と、
 加えて私生活をかなぐり捨てるほどの仕事への情熱ゆえに、セルピコよろしく孤立する。
 なんせ敵は麻薬王だけではない。
 それに群がって甘い蜜を吸い続ける同業者たちもまた妨害者であるわけだ。
 そこで、
 彼はまず信頼のおけるチーム作りから乗り出すわけだが…。


 二時間半を超える長尺でありながら、まったくダレることなく物語ってみせるあたりは、さすがはリドリー・スコットというところか。
 加えて画面も抑えた統一感で、かつ見事なまでに充実している。
 むろんフランク役のディンゼル・ワシントンの存在感が、なにより大きい。
 なんだろか。あの横溢する高度なワルは。
 『マルコムX』での名演でもそれがカナメになっていたし。
 『トレーニング・デイ』なんていう、映画としてはしょーもない、生まれぞこないのようなのでも、彼のあの強さだけで、つい観てしまった。
 てか、それだけが観どこだったと言っていいだろう。
 対するリッチー役はラッセル・クロウ
 んが、
 そんなこんなでディンゼルの寡黙で重厚なワルぶりの前では、哀しいかな、薄いと。
 けれど、
 それがまた、養育権の調停と、オンナ関係にてんてこ舞いとなりながらも、使命に対して愚直な男の地味さ加減にあっているわけでもあって。
 欲を言えばだ、
 私腹を肥やさない男という役柄上、もうちっと痩せたほうがいいかなとね。
 まあ、彼の役も実在なので、ご本人がメタボだったのかもしれないのだが。
 かててくわえて、んなこた、どうでもいいかもしれないが、とにもかくにも、


 ね、と。


 んなわけで、
 とはどんなわけか、
 などと思いつつ、んなことが実際にあったらしいぞ、という知る楽しさも噛んでふくめて、転がして、フツーにお勧めできるシロモノです。






 ☾☀闇生☆☽


 追伸。
 挿入される音楽が、当時をしのばせていて楽しい。
 もひとつ欲を言えば、
 クラブでのバンドの演奏シーンは、音と手を合わせてほしかった。
 余談として、
 先日書いた『グラン・トリノ』も、
 でもってこの作品も、共にケータイの無い時代設定。
 現代からみて、
 その利便性のもどかしさにこそ、ドラマが潜んでいる、と再確認。
 気のせいかなんか多いね。そういうの。


 さて、
 今夜はW杯ですか。
 丁度休日なので、あたしも観ますぜ。
 よろしくどうぞ。