「いらっしゃいませ」


 と出迎えられて、
 ショーウィンドーを見るともなく見ていると、
「よろしければ、どうぞ」
 可愛らしい白のカップに鮮やかな紅茶が注がれていて。
 柔らかな笑みをたたえた女性店主がそこにいる。
 かたじけない。
 初めて足を踏み入れて、
 まだ、買うとも買わないとも言ってないのに、これだもの。
 まいったさ。
 お義理のバレンタインの返礼をば片付けんと、検索してたどり着いたとある小さな洋菓子店。
 その旨、来意を告げると、なぜたか彼女は少女のように華やいで。
 つづけて、自転車で四十分かけて来たことを知ると目をむいて驚いておられた。


 あそうか。


 自転車で四十分とは、そんな感じか。
 普段、ケービの現場に一時間はかけるので、なんの躊躇いもなく飛び出てきてしまったのだ。
 もとより春風が吹き荒れた一日なわけで、
 そうなればご多聞にもれずふらふらと出歩きたくなる、そんな危うさを持つ男でもある。
 すまん。
 そんながっつりとした客で、すまん。
 スイーツを買うのに根性みせちまって、すまん。
 ともかく、
 くれたチョコと同じ価格帯と予想する値札のついたやつを、
「アレください」と。
 あたしゃまるで小学生のように指さしたのだな。
 甘いものは嫌いじゃない。
 むろん甘さの種類にもよるが。
 ナニを隠そう、あたしゃ生来の味音痴なわけで、
 とどのつまりが舌が拙いの。
 貧しいの。
 そんなヤツが、賢しらぶって味見をしたところで何がわかるわけでもなく。
 知ったかも大概にせいと。
 つまりが見た目と値段だけで、こともあろうかプレゼントに選んだのだからして、
「あのお、こちらを召しあがったことは…」
 店主が疑問を抱くのも無理はない。
 だもんで、あたしとしては、しどろもどろにこう答えるしかなかった。
「ネットで見て、決めたのです」
 きっぱり。
 それだけなのよ。
 ね。
 ゆるして。
 石畳。
 その名前も、気に入ったし。
 そんなあなたも気に入ったし。


 なんだかその好印象に呑まれてしまって、ポイントカードを作っちまったぞい。
 今度来る時は自分用のを、と決めた。






 ☾☀闇生☆☽
 
 
 本業のエロ屋ではああは接客できないなあ。
「いらっしゃいませ♪」
 と迎えて、一服の媚薬を差し出しーの、
 いひひひ。
 うちは冷やかしさんが多いしなあ。