本当の残虐非道とは、
 この世の一切を、
 問答無用に、
 情け容赦もなく、
 一方的に消滅させてしまうこと。


 朝、目覚めると、
 机の上にそんな走り書きだもの。
 その文字は本業のエロ屋で使った『口枷パラノイア』の納品書の裏に。
 Bの鉛筆で汚く殴るように書きつけてあった。
 とはいっても、不肖闇生。ひとりぼっちである。
 書いたのは自分しかいないわけで。
 はて、
 ひとりで酔ってあえなく自滅した昨夜のあたくしは、いったい何を書きとめたかったのか。
 と考えるまでも無く、思い出すのだ。そこは。


ザ・ワールド・イズ・マイン


 という、やたら周囲が褒めちぎる漫画があって。
 あたしゃそういうのに煽られやすいタチであるからして。
 でもって、面白そうなものには煽られなくてどうすると、煽りの勢いにたのまなくては腰が重いままであるというのを、自覚してもいて。
 ともかくも意識してはいた。
 んが、
 漫画の探し方が下手っぴなのである。
 駅前の小さな本屋クラスにはなかなか見つからないし。
 巨大な書店では、そもそもどこをどう探したらいいのかわからない。
 ほっとくと、そのうち出口まで分からなくなるありさまなのだ。
 といって噂だけをたよりにいきなり通販というのも、どうなんだ。
 尻が軽すぎやしないか。
 そうこうするうちに昨日、そのコンビニ版が出ていることを知るに至るのだな。
 めでたくも。
 この作品はオリジナルが出版されたあと、大幅な加筆修正を経た『真説』版として改められ。
 コンビニ版はこの真説版を底本としているという。
 だから、まあ、おのぼりさん的にはとっつき安かろうという。
 でもね、
 表装にはこんな言葉がでかでかと踊っているではないの。


 凄惨な殺戮劇!
 至上最高・最凶の問題作
 破壊の限りを尽くすテロリスト
 くるり激賞!!
 伊坂幸太郎 震撼!!
 RIP SLYME 歓喜!!
 松尾スズキ 嫉妬!!
 各界の著名人が大絶賛
 20世紀最高の残虐非道


 つまりが、
 ハードル上げすぎじゃないかと。
 歓喜、だけはなんか違うぞと。
 そもそものはなし、残虐をウリにするもののだいたいが、それまでのシャッチョコバッタ規制に拠って立って残虐度を水増しされたものだったりする。
 ようするに反動ね。
 やれ首が飛ぶ、
 手が飛ぶ、
 ぶちまけた脳みそで山水画を描く。
 しかしながら思うのだ。残虐とは、流れた血液や切り離された肉塊の量ではないのでは、と。
 だから、それをウリにされちゃうと拍子抜けしてしまうのだわ。あたしなんかは。
 

 ちなみに、
 そうはいっても闇生は相当なビビリであることを告っておく。
 これまでに印象に残った残虐は、
 まず映画『ハンニバル』の、料理された自分の脳みそを食わされるあのシーン。
 脳は痛みを感じず、
 また切除されたせいで状況が判断できずに、それをおいしくいただく、あれ。
 それと、筒井康隆の短編小説『問題外科』。
 全身麻酔をほどこして手術をはじめたはいいが、患者を間違えていることに気づいて、どうせならと、そこから弾けてしまうあれね。
 パーティー状態の残虐だ。
 これは『笑い』と『残酷』と『エロ』は背中合わせであることを表すお手本でもあるのだぞと。
 それから、
 村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』の拷問の、あれ。
 そう、あれ。
 腹いっぱい牛丼をいただいた直後に読んだので、吐きそうになったわい。
 けどね、
 これらからすると『ダイハード』シリーズのようなもののほうが、よっぽど人を殺しているでしょ。
 とは北野武の受け売りだからね。
 では、いったいどこをどう残虐と、
 あるいは残酷と解釈したのだろうか、このあたくしは。
 どのあたくしか。
 冒頭のメモを書いた、あたくしだ。
 で、繰り返す。


 本当の残虐非道とは、
 この世の一切を、
 問答無用に、
 情け容赦もなく、
 一方的に消滅させてしまうこと。


 たとえば大量殺戮も、他者あってのものに違いない。
 極論だが、そんな他者への甘えが辛うじて残されているし。
 愉快犯ならば無論のこと、そうだろう。
 甘ったれだ。
 けれど、
 どんなに非道に徹しても、この世のすべてを殺しつくすことはできやしないのだ。
 唯一その可能性があるとすれば、自決。
 それのみ。
 逃げとしてのそれではなく、
 絶対的な上から目線でこの世の一切を見限って、消滅させる意味での自決だ。
 この世のすべてを制覇するエクスタシー。
 生死の自在すら制御して。
 それこそが真の覇王だろう。
 そんな王ならば、決して『自分自身の肯定』を声高に公言する甘えも持たないし、世間を騒がせようという依存も持たないのだよ。


 人知れず、満ち足りて自決する。

 
 なんてことまで考えさせるのだな、
 この表装に並べられた煽りは。
 だから、ハードル上げ過ぎだっつの。
 残虐は核心への前戯でしょうが。


 あ。
 ちなみにコンビニ版の二巻は、あっという間に読破したよ。
 ハードルを捨て置いて、おもしれえ。
 残虐非道の云々は置いといて、おもしれえ。
 なんかね、
 なぜだかね、
 『傷だらけの天使』のコンビを思い出した。
 女装のトシ。
 絶望に対してひたむきで、
 健気で、
 直情型のモンに対して、複雑で魅力的だ。





 ☾☀闇生☆☽


 昨夜の教育テレビ『芸術劇場』観ました?
 R・カステルッチ演出
 『神曲 地獄編、煉獄編、天国編』
 なんて綺麗なんだろう。
 呆気にとられて。
 ほぼ無言劇なのに、静寂の美しさに時間を忘れたわ。
 あの壁のたたずまいの良さったらないね。
 音楽も、ニカっぽいのになじんで。
 役者も素晴らしい貌だ。
 教育テレビの強みは、視聴率に媚びなくていいところ。
 そこに存在意義があるのだから、それを貫くべし。

 
 追伸。
 肉体の全てを義体に。
 果ては脳すらも数値化して電脳に。
 『甲殻機動隊』の描くあの世界もまた、突き抜けた残虐を下敷きとしている。
 一切の有を極めようすることは、
 無に帰そうということでもあり。
 無。
 おそらくそれは、慈悲でもあって…。