「おらっ、ガードマン。ちゃんと止めとけよっ」


 頭ごなしに怒鳴られた。
 道路工事の作業員にである。
 不肖闇生は今、ケービ士として交差点のなかでの片側交互通行の誘導をしているのである。
 今回の現場は作業帯の位置や範囲が刻々と変化するので、時間によって片側交互通行の方向が変わる。
 それに合わせて設けた歩行者用通路のコースも変える。
 問題はその変わり目にある。
 交通も歩行者も途切れないので、誘導をしながらバリケードを設置し直すのね。
 で、そのスキをついたように車や歩行者が進入しようとするのよ。
 むろん、これらはケービ士の状況判断力と迅速さでカバーできるものかもしれない。
 けれど信号無視や、運転技術の稚拙さによるトラブルまでは対処しづらいもので。
 信号が青で、まだ余裕があるから進めの合図を出していたのだが、唐突にスピードをゆるめてのろのろとやっているうちに信号が変わってしまったと。
 どうやらケータイを操作しながらの交差点進入であるらしかった。
 むろん停止したのだが、なんとそれが作業帯の真横だ。
 つまり二車線の半分が工事でつぶれて、もっとも道幅が狭くなったところ。
 車が道を塞ぐかたちとなったわけ。
 よって左折や右折でこちらへ侵入しようとする車が立ち往生となってしまう。
 だもんで、現場の作業員に冒頭のごとくに怒鳴られるのだ。あたしらがね。


「すいません」


 それでもドライバーは何ごとかケータイの向こうと談笑してたりして。
 がっはっは、とノドチンコ丸出しにして哄笑までしていて。


 通話はもとより、なにごとか入力しながら交差点を曲がろうとするのまでいるのだから、哀しくなる。
 そんな奴だから案の定、呪い。
 もとい、のろい。
 &こちらの誘導に気づくのも、遅い。
 とどのつまりが、とろいと。
 別にケータイがらみでなくとも、ご老人ドライバーの大方がそんな運動神経であったりするのだが。
 また、こちらの制止を無視したうえで、例のその迷惑な地帯であえて停止し、現場の作業員にのんびりと道を聞き始めた女性もおられた。
 んで、怒鳴られるのな。誰がって、うちらがさ。


「すいません」
 

 でも、一番危険なのは自転車かと。
 なんでも最近事故が多発しているのだとか聞くが。
 今週だけでも三件のトラブルを目撃したよ。
 うち二つは、工事と直接には関係しないもので。
 自転車同士が出会いがしらに前輪をぶつけあった。
 かたや後ろに子供を乗せたママである。曰く、
「ちょっと、よそ見してないでよっ」
 いわれたオッサン、
「すいません」
 素直に頭を下げて去りかけたが、ママはそれでおさまらない。
 なにやら罵倒したのだな。
 この余計な粘着がまずかった。
 おっさん背を丸めてスゴスゴと去っていく予定であったが、態度を急変。
「んだこらっ」
 以下、「くそ」「あほ」「馬鹿」「じじい」「ばばあ」などの素敵な言ノ葉のラリーとなる。
「うっせえばか、こっちゃ子ども乗せてんだよっ」
 啖呵を切り慣れてないママの渾身の罵詈雑言を、はて、その子どもは荷台でどう聞いていたのか。
 

 で、もうひとつ。
 走行する車の前を無理に横切ったマウンテンバイク。
 車は急ブレーキをかけたあと、去っていく自転車を追いはじめた。
 クラクションを鳴らしっぱなしにして。
 自転車はそれを無視して走り続けたが、まもなく追いつかれ。
 車は幅寄せしながら窓越しに自転車の男へ何か注意したらしい。
 が、自転車は逆ギレ。車のバックミラーを、だんっと殴ってスピードを上げた。
 車はさらにクラクションを鳴らしてそれを追う。
 自転車はそのまま逃げ切るつもりだったのだろうが、折しも前方の踏切の遮断機が下りてくるところで。
 やむなく停止した。
 が、むろん車はそれを逃がさない。
 助手席から若いのがひとり猛然と駆けおりて、それを捕まえた。
 追って運転手もそれに加勢したあたりで、踏切をまつ人ごみに埋もれて見えなくなった。


 もうひとつは現場がらみ。
 道路工事の場合、地面を掘削しやすいようにあらかじめアスファルトに切れ目を入れておく必要があるのね。
 カッター作業と言われるもので、簡単にいえば大きな電気ノコギリをつけた車がその作業を担当する。
 車体はゴルフのカートの屋根を取っ払ったくらいだろう。
 カッター車はそのケツに二本のホースを引いている。
 一本は路肩にとめたトラックから水を引き込んで、切断部分にあてるためと。
 もう一本はその排水のためだ。
 それぞれ家庭用のゴムホースと同じくらいの太さである。
 これを引きずりながら亀のようなスピードで作業を進めるのだ。
 この日の作業は歩道のなかだった。
 特に危険な要素はないと思われたが、自転車のご婦人がホースにタイヤをとられて、コケた。
 あのホースの段差に、コケたのだ。
 自転車に乗る人にとっては常識であるはずなのだが、どんなに小さな段差であっても、それに対して直角に近い角度でアタックするべきである。
 段差と並行に近い、いわば浅い角度で突入すると、あっさりとタイヤをとられる。
 川面に投げる小石を連想すれば、わかりやすいはずで。
 なのにご婦人は無謀にも、ホースに沿うようにゆっくりと横切ろうとしたらしいのだな。
 幸い、怪我もなく。
 それからあたしがカッター車につくことになった。
 カッターに付き添いつつ通行者に注意を呼び掛けたのだが、ホースは数十メートルにわたっているため、段差に関してはなすすべがない。
 頼む。各々、日常レベルの警戒でこなしておくれと。
 して、作業は続行。
 んが、午後になってそのご婦人、なんと警察を引き連れて再び現場に戻ってくるではないの。
 ものものしく現場検証がおこなわれ、作業員と監督がご婦人に頭を下げる。
 けどね、
 よくよく考えてみたらね、


 歩道って自転車通っちゃいけないんだよね。








 ☾☀闇生☆☽

 ドライバーも、自転車も、歩行者もご老人が多いということを痛感する。
 特に自転車というものは、速度が遅いほど安定性を欠く乗り物だ。
 そのハンドルさばきは、ぷるぷるしている。
 それでいて、せっかちなルート選びをされる。
 信号無視。
 車道横断。
 歩道突破。
 それらの危険性を少なくするための、道幅を広げる工事でもあるわけなのです。