振り返れば、変態さんのご来店が絶えている。
店が活況を呈していたころは女装子さんの姿がちらほらあったし、『極妻』ばりの和装とメイクでもって高額なミストレス系を、つまりは女王様ものを購入していかれる女性客もあった。
前にも書いたが、ジャージのズボンの中になにやら物々しい装備をされて、そいつでもって己の禍々しきナニごとかを、ぺこんぺこんと執拗に仕置きされていたお方もおられた。
そんな歴戦の猛者たちがだ、
客単価がなだれをうって落ちて行くにつれて、遠ざかっている。
そもそも来店数が激減しているから、変態さんの割合も自然それに比例するのだろうけれど。
あ。
申し遅れた。
あたしゃエロDVD屋でござる。
いま、閉店を目前に控えているのであーる。
よって売れ残りの処分をおっぱじめているのであるが、これがまた売れないのね。
値段も原価を大きく割って、なかには100円にまで落としたものまであるのだけれど、そんな商品ですら、
「これ、とっといて」
わざわざ割引の日に買おうと取り置きを頼まれるほどなのよ。
ううう。
むろんネット上の安価(もしくは無料)なエロに押されているのに違いない。
そりゃタダにはかなわんてば。
けれど、そこで持て囃されているものの多くが、刹那的クライマックスの連続に終始しているのは、周知のとおり。
むろんパッケージ作品にだって正規ダウンロード版があるさ。
でも、どうなのあれ。
どれほど広まっているのん?
やはりもっともアクセスがあるのは、プロ・アマひっくるめて、ストーリーも設定も経緯すらもすっ飛ばしたものばかりではないのん?
音楽にたとえればサビだけをダイジェスト編集しているようなものだろうか。
よく言えば、クライマックスの永遠を目指すテクノ系のような、と言おうか。
その良さもここはひとつ認めちゃおう。
んが、
世のエロのすべてがそれになってしまっては味気ないだろうに。
ってなわけでか、それらを無粋とみなす方々には、重宝したはずなのである。
パッケージ商品というものは。
などとのたまいつつも、DVDもまたスキップ自在なのだなあと気づいてしまう。
だどもね、
少なくともさ、
ストーリーと設定重視の熟女ものや、
あるいは戦隊ヒロインものがここ数年伸びていたのも、ひょっとするとそんなネットエロ事情への反作用なのではないのかと。
くわえて、脱がず抱かずの着衣緊縛の隆盛も、クリックひとつでモロ出しが見られてしまう環境に食傷してしまった、そんな通人に支えられてのことではないだろうか。
などという、そののたまい自体が、どうしようもなく無力なのだよ。
それらもネットで見られればよいではないかと。そんなことになる。
かてて加えてパッケージ売りはエコにも逆らっているわけだから、やはり惨敗なのですな。
ところで、
SAPIO 9/30号にこんな特集が組まれていた。
題して、
『このグロテスクな「年収格差」!』。
そのなかの性生活の項目のタイトルはこうだ。
『「SEX格差」拡大で「中年童貞」が増殖中!
年収200万円以下は、結婚できない、風俗いけない、頼るはマスターベーションだけ』
(門倉貴史)
なにも「頼るは」とまでダメ押しせんでもねえ。
などと思いつつ記事によると、
お年頃の独身女性の結婚相手に求める年収の妥協ラインは、
「400万円以上」
といふ。(2006年10月「第15回match.com愛の調べ」アンケート)
あくまでその理想を死守するのならば、単純計算で228万人の女性と250万人超の男どもが、あぶれるのだとか。
んで、
収入が低ければ、なにより出会いの機会が減ると。
なぜといって、そのほとんどが派遣や日雇いで、職場が流動的になるからだと。
ましてや低賃金ゆえの働き尽くめだから、恋する暇もありゃしない。
ならばと合コンに願いをたくすのだが、その費用も安くはなく。
シフトを調整して久方ぶりに合流してみれば、もはや流行のノリについてはいけず。
話のタネのサブカル情報にもうとくなり。
むろんおしゃれなどは二の次に。
といって性風俗に行くお金もないと。
そうしたうえで記事はこうまとめるのだった。
『子供手当て』は、以上のような境遇にない『結婚できた』高収入の人を対象とした制度であると。
記事が依拠するデータには『独自アンケート』などというものもある。
だもんで、あたくしとしてはハナシ半分にして受け止めている。
で、のこる半分でこうも考えるのだ。
SEX格差以前に『生身ぎらい』が顕在化してますよねと。
というのも、価値観なるものがあまりに細分化されすぎてね。
しかもそれが個人(私人)の確立によって、ゆるぎないものになっていくわけで。
ようするに『寛容』は相手に求めるばかりであると。
言い換えれば、
「あなたにとってのかけがえのない私」だ。
そんな女子の風潮を嘆いたのはほかでもない、誰あろう上野千鶴子であるとか。
なんでも彼女は、
「私にとってのかけがえのないあなた」
それを求めよと諭したというのだ。あのフェミニストの権威がね。
そんな時代だもの。
対人関係なんざ、めんどくせえわいと。
交渉?
まわりっくどい。スキップできねえのかいと。
ちなみに『交渉』をスキップし続ければ、その対になる概念『戦争』へと行き着いてしまう。
『戦争』の対は『平和』ではないのであーる。
えへん。
受け売りをのたまっちまった。
閑話休題。
して、低迷するエロ業界の隅っこに身をおくものとしてあれこれ連想すればだ、客単価の急激な低下はむろんのこと、変態さんの激減もまた、この不況が災いしてのことかと。
なんてったって出費がかさむもの。
変態道ってものはさ。
妖しくも滑稽な衣装やら、淫靡な下着。
奇妙キテレツな器具や、装置や、装具や、シチュエーションや、はたまた同好のパートナー探しまで。
場も時間もいるし。
言ってみりゃそれは道楽だもんで。
なにをおいても楽しむ道だもんで。
変態の道とは、古来そういうものなのだろう。
にもかかわらず、
されど背に腹はかえられぬ、ということに落ち着くのだろうか。
とまあ、そう理解してみたところで、
はけ口を失った業のごとき欲望どもが、いったいどこへ散ってしまうのかまでは想像ができない。
てか、するのが怖い。
ちゃんと成仏できんのかしらと。
失業を目前にしたあたしなんぞが他人の道楽を心配する。それこそが噴飯もので、身の丈を大きく超えてもいるのですが……。
はてさて、どうなのでしょう。
ねえ、どうしてんのさ、変態さんたちよ。
以上、敬称略。
☾☀闇生☆☽
で変態。
いわずもがな合法の範囲内で励んでおられる方々を指しておるのです。
はい。
不肖あたくし、小学生のあるとき、YMOにぶちのめされまして。
それはさながら天災のごとき衝撃でした。
彼らはあられもなくおっさんで、
なのになぜか妖しげに化粧をしていて、
ユーモアとシリアスを軽妙に行き来しつつーの、
新しいことを提示することに取りつかれていて、
それはもはやビョーキといっていいまでに熱に浮かされてもいて、
客席からファンに「へんたーい」と声を掛けられる、
そんないけない大人たちでした。
以来、
あたしにとっての『かっこいい』は、長くそんな変態を基準としていたのです。
変態も、つきぬけた本物ならば、時代になんぞ潰されまいて。