気づけば隣に少女がいた。
小学校の低学年か。
悪戯っぽくほくそ笑んで、こちらをうかがっている。
シャンプーをしてもらったばかりのあたしは大いに戸惑ったが、寡黙な客であることを心がけた。
しかし、店主に肩を揉まれながらふと見ると、少女はそれを真似てみせている。
もみもみ。
もみもみ。
エア床屋。
なあんだ。この無愛想きわまりない、ここ壁の言の葉で再三にわたって不機嫌な古田新太似のマスターだと表現してきた彼も、人の親だったのだ。
どうやら少女はその娘らしく、
「パパ…」
こっそりと囁く声が、耳の底をくすぐった。
夏休みで、持て余した退屈のやり場を父の仕事場に選んだのに違いなかった。
パパ、大好き。
声をこらえたその笑顔に、そう書いてある。
正直、マスターの至極ぞんざいな態度には毎度戸惑わされるばかりで、闇生は彼の勤労意欲を疑ってもいたのだ。
して、そんなことだから、きっと独身者に違いないと。
ようするにてめえのほかは二の次にせずにはおれない、有体を言えば背負うもののない輩であると思いこんでいたのだが…。
すまんかった。
娘をもってなおそうであるとするならば、そのぞんざいに悪意はなく、きっといろんな意味で不器用なのだとおもう。
かつて客に笑顔がきもいとののしられ、まったくもって好かれないあたしとしては、大いに同情すべきかもしれない。
んが、
それはそれで身の程知らずかもしれず。
ならばいっそ商売人ではなく、寡黙で実直な昔堅気の職人たれと願わずにはおれんわけで。
☾☀闇生なわけで☆☽