壁の言の葉

unlucky hero your key


 若手の女芸人が、
 深田恭子の口許の真似するといってマイクを握った。
 カメラがそれに寄り、
 会場の巨大モニターに彼女のくちびるが大映しになる。
 それは言葉と言葉のあいまに、フカキョンが舌で前歯を拭うという、めちゃくちゃちいさなモノマネである。
 はたして本物のフカキョンがそんなしぐさをしていたかどうかは、思い出せないが。
 てか、たぶんしてないが。
 舌が、閉じた唇のなかで艶めかしく蠢きやがる。
 それを繰り返し見せられているうちに、否応もなくエロいなと。
 そんな連想が観客席の野郎どもに火をつけた。
 唸り声が、地鳴りのよう。
 芸人はここぞとばかりにそれを煽った。
「もっと、どうどうと笑おう。さあ、勇気をもって!」
 舌が蠢く。
 野郎が唸る。
「もっと元気にっ」
 舌が蠢く。
 野郎が吠える。


 そんな夢だった。
 きっといびき防止のマウスピースをして、しゃくれ気味に寝たからに違いない。
 芸人の真似るフカキョンは、受け口であった。


 マウスピースを使うようになって、夢をみることが多い。
 そのどれもが悪い夢ばかりなのだが、今日のはまだマシか。
 

 『イノセンス』を観直す。
 印象的な、
「孤独に歩め。林の中の象のように」
 という言葉は、たしか釈迦のものだったか。
 バトーが犬の世話をするシーンは、いやはやなんとも、沁みるねえ。
 前作のフラッシュバックが頭の中で連鎖して、
 ちりちりするわ。


 孤独に歩め。
 ヘンリー・ダーガーのように。


 若くして精神障害と診断され、
 押し込まれた施設を脱走し、
 たどりついた病院の掃除婦として働きながら、
 人知れず絵を描き続けた彼。
 現在のようなネットもメールも、プログも、ツイッターもなく。
 ならば、
 夢はきっと、向こうから訪ねてくれる、かけがえのない友だちに違いない。
 歩みはひっそりと、
 されどその足跡はしっかりと。






 ☾☀闇生☆☽


 にしても、
 フカキョンかあ。
 まったく意識したことなかったわ。