街道の路肩にはためくその幟に気づいたのは、いつものウォーキング中のことである。
『古着』
 しかし、そこは古本屋の店先のはず。
 コミックスをメインにした品揃え。
 んで、暖簾を隔てた奥ではアダルトDVDも扱っているという、近郊によくあるタイプの店舗であった。
 さては店が変わったか。
 と思ったが、そうではない。
 どうやら同時に古着も扱いはじめたと。そういうことらしい。 
 いやはや、不況のあおりは個人店にそんな無理を強いるのだなと。
 いまや日常品のなんでも屋となったコンビニや、あるいは複合書店ヴィレッジヴァンガードではないのだから、いち個人店が水陸複合のトライアスロンで彼らと勝負するなんてのは、どこか痛々しく。
 して、もの哀しくもある。
 これって、落ちていく小売店のパターンではないのか。
 

 勤務先の店舗がある雑居ビルには、最近になってカレー屋が入った。
 その界隈は、いかに安く呑めるかで客を奪いあうような、つまりワンコイン的な店が軒を連ねる地域である。
 客の年齢層も高い。
 だからたとえカレー屋でも、食券の自販機を使うようなそんなタイプの店ばかり。
 なのにそこへきてナンを使い、ルーも三種類から選ばせる、テーブルクロス仕様の店が入ったのだ。
 案の定、いつ覗いても客の姿が見えない。
 それで、しびれをきらしたのだろう。
 ついにビールを、ほとんど原価のような値段で出し始めたのである。
 パートの女子が書いたらしい丸文字ポップのアピールも、いじらしく。
 して恥ずかしく。
 しかし、それでもつまみの充実がなければ、客は集まらんぞと。
 といったところで、無理なのかなあ。
 なんせカレー屋ですもの。
 そんなこんなで、最近になって昼時に250円弁当を売り出すことに。
 よりによってカレーとはまったく関係のない、唐揚げ弁当だとかである。
 これには人が群がったが、どうだろう。リピーターにつながっているかどうかはいまのところ、謎だ。

 
 そこで思い出した。
 不肖闇生。かつてレンタルビデオ屋に勤務していた。
 最大で都内に8店舗。
 アメリカに3店舗をもった会社だった。
 それも時代とともに縮小して、いまや虫の息というありさまなのだが、その撤退の殿戦でも同じようなことがあって。
 店内にツーショットダイヤルのチケット販売機だとか、あるいはクレーンゲームを置いたりしたのだな。
 そんなものに敷地面積をつかうくらいなら、在庫を充実させろと。客も店員も思ったさ。
 ああ、そうさ。
 思ったよ。
 なのに店頭にはジュースの自販機を並べて、作品紹介のポスターすら隠してしまうありさま。
 そうなった店舗ほど、早く消えたね。
 いや、減収がそういう戦略を強いたともいえるのかもしれないが、往生際のわるさばかりが際立っていたと思う。
 まざまざと。


 その勤務地の近くには床屋がいくつかある。
 そのうちのひとつは、店頭になんとゴミを並べて売っているのだ。
 いつからか店主が不燃ごみの日に収集所から回収してきて、おもむろにおっぱじめた。
 VHSのパッケージ無しAV、
 樹まり子やら、桜木ルイやら、林由美香やら…。
 または個人的に音楽を録音したカセットテープ、
 杉山清貴浜田省吾
 熊の置物、
 ブルーワーカー…。
 日に日に増えて、いまや店を隠すほどになった。
 あのくるくる回る床屋の看板も、ゴミの派手派手しさに埋もれてしまって、そこに床屋があるのを知る人は少ないのではないのか。
 いや、知ったところで、入りづらいんだわ。あれでは。
 毎日、閉店とともにそれら膨大なゴミを店内に収容するから、夜覗くと、さながら廃墟よ。


 地元で有名なラーメン屋があって。
 あたしが通った十年くらい前は、つねに行列があった。
 パンチパーマのこわいあんちゃんが仕切っていて。
 店内にはこんな張り紙があるのだ。
『麺はのこしてもスープは残すべからず』
 どーん。
 けど、言われるまでもなく、うめえから文句はなかったな。
 飲むなっつったって、飲んじゃうよ。
 それが今、厨房の面々が変わってどうやら味も微妙に変化したようで。
 張り紙は取り払われて、
 行列は無くなり、
 いまではポイントカードを発行する始末と。
 うぅぅぅむ。
 

 とまあ、
 そんな変化に我々小売店は敏感になっているわけ。
 あっちの店がナニを始めたとか、やめたとかにね。
 だからだと思うのだが、
 そのかつての勤務先があった商店街。
 人通りの賑わいから外れたところにぽつん、と赤ちょうちんの居酒屋があって。
 それは当時からずっと目にはしていたが、入ったことはなかったところで。
 見たところせいぜいカウンター席が5、6ばかりだろう店構え。
 あるでしょ、そんな風情。
 いったいこんなところに店を出して商売が成り立っているのかと、つい訝しんでしまうような。
 その店頭に、いじらしい手書きポップが張り出されたのを、このたび風のうわさに聞いてしまったのだ。
 ネットの時代に風のうわさもないが、なんでも週に二度、マジックショーを開いているという。


 嗚呼、


 これも、例のパターンか。
 そう嘆きつつも、どこか手作り感が愛らしいじゃないのさ。
 ねえ。
 おそらくは老いた店主がさ、
 カルチャーセンターかなんかで覚えた手品を披露するに違いないのよ。
 ドン・キホーテあたりで仕入れたパーティーグッズで、それもトランプマンさながらの古き良き奇術師の扮装をしてさ。
 ふるえる指先で、バレバレのコインマジックやカードトリックをやらかすのだ。
 なーんて、
 そんな想像で決めつけて、うわさをくれた風氏と笑っていたのだ。
 ところが、
 ひょんなことでそれを検索してしまうのだな、あたしが。
 したらさー、おどろいたのなんのって、もお。
 その店主、戦前・戦中に活躍したジャズマンだというんだから。
 しかもよ、ビブラホンの巨匠、あのライオネル・ハンプトンとの共演歴もあってね、セピア色のツーショット写真がとあるブログにアップされてるではないのよ。
 されど、時の流れは残酷で。
 現在病気療養中という。
 どういう経緯なのかは知らないが、マジシャンたちには有名な店らしい。
 それで、
 その店の常連マジシャンたちが声を掛け合い、マスターの入院費などの工面の名目で、ショーや店番を交代で買って出ているのだと。
 どうすか。
 ちょっといい話でないかい?




 ただ外から見てただけでは、実情はわからんと。
 人がいるところ、かならず物語があるのですなあ。




 ☾☀闇生☆☽