歯医者へ行ってきた。
睡眠時無呼吸症候群の予防用マウスピースができたのである。
調整と仕上げがあるので小一時間ほど費やしたが。
前回とった歯型は上と下のふたつで。
すなわち上顎と下顎の歯並びをおおうように、それぞれにU字型のができている。
それをカポンと装着したうえで、ややしゃくれ気味に顎をつきだせと。
ちょうど下の前歯に上の前歯が垂直に載る程度に。
こうすると、仰向けで寝ているときに舌がずり落ちて気道をふさぐことがないというのだ。
ともかく、そんなあいーんな風情でフリーズを言い渡され、懸命に耐えた。
何にって、まずあいーんの恥辱と。
それと口の中をセメダインで満たされたようなそんなたまらぬ臭気に、である。
その間に先生は闇生の哀しきあいーんを固定せんと、上下のマウスピースを接着にかかるわけだ。
口でも呼吸ができるようにと前歯の隙間に穴を穿ち、そのうえで上下を一体化する。
念のため言っておくが、いまどきあいーんも無い。
どちらかというと、ひょうきん族派であった。
んが、
にもかかわらずくすりともしない静寂のなかでそれを続けるのがまた、なかなかの苦行であって。
しかも、助手の女の子と先生に真顔で見つめられながらであるから、
さぶい。
ともかく、
できたてのマウスピースはかなりキツめなので、いざ脱ぎにかかるとセメダインの方が負けて元の黙阿弥に。上下に分離してしまう。
「嗚呼っ」
思わず先生が声をもらされる。
あらま、とばかりに助手さんの眉間がよれる。
乾きかけの接着剤がぬっちゃりと音を立てて、それはそれは残念な眺めに違いない。
おそらくは口のなか全体が糸を引いてエイリアンのような有様だったろうと思う。
その後、何度かのリトライを経て、ようやくマウスピースは完成した。
形状は、格闘家が使うそれと似てはいる。
ところが半透明なだけに、歯形くっきり歯茎にょーんでおどろおどろしくもある。
だもんで寝顔はぜひとも隠し通したい所存だが、
防犯にはなる見込みと。
メンテナンス法はいたって簡単。
使うたびに歯ブラシで洗うか、入れ歯用の洗剤で漬けおき洗いせよとのこと。
携帯するときのためにと専用のケースもいただくことにした。
ブルーとイエローの二色から選べと言われて、ブルーをチョイスしたよ。
男の子だもの。
どうせならケータイ用ストラップとかUSB対応とか、いろいろ出てくるのかとも思ったが。
思わないが、
そうした。
お会計は、一万円弱。
いたたっ。
そんなこんなで、本はいま再読キャンペーンということにしている。
あまり次から次へと飛ばしていくのもどうかと思ってね。
まずはカート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』読み直しを。
いまはコーマック・マッカーシーの『The Road』。
系統立てて読むのは苦手なので、性懲りもなく乱読だけれど。そんなシャッフル加減に新たな発見があったりもするわけですわ。
今日もね、i-Tunesを全曲シャッフルにして流していたのさ。
風がきもちいいもんでよ。
したらさ、
レイ・ハラカミのあのエレピっぽいエレクトロニカのあとに、細野晴臣の『Mercuric Dance』収録「空/空へ(To The Air)真空」が流れるではないの。
両者のあいだには二十年近くの時間の隔たりがあるはずなのに、うっかりレイ・ハラカミのだと思うくらい、すんなりとスイッチするんだなこれが。
当時、こういうのは環境音楽とか言われた。
それにちなんで細野はこれを「観光音楽」と。
いまで言うところのアンビエント。
静の音。
言ってみりゃ「わびさび」。
たとえば普段は静まり返っている地面が、その実、自転という巨大な『動』を継続しているように。
その動は公転というさらなる動に拠っていて、と。
そんな具合に静の底にはケタ外れの躍動があるものだ。
よく、動の教授(坂本龍一)に対して、静の細野と言われることが多い。
んが、そう考えると、細野の動は、ふところがでかいだけなのだと。
事実、このアルバムは古代の水銀の道をたどるというコンセプトでつくられており、そんな細野のアンビエントはいつだって目に見えぬ巨大な流れを意識しているように感じられるのであーる。
同じアルバムでは「火/火の化石(Fossil of Flame)」がクライマックスだろう。
こんなのをあえてウォーキング中に聴いたりして、満月の晩などには、しみったれてしまったりするわけですよ。
あたしなんかは。
あいーんですから。
さて、今夜こそはマウス//ピースフルに、静なる動に抱かれて眠りたいものであーる。
☾☀闇生☆☽
舌が、でかいのだそうだ。闇生は。
しょーもないことに、
下顎の歯並びのなかにきちんと収納できていないという。
言ってみりゃファンデーションのコンパクトから、中のパフがはみ出ているような感じらしい。
今は、反射神経で噛まないようにしているが、年をとれば、たぶん頻繁に舌を噛むことだろうと。
それはかなわんわ。
だから訊いたのさ。
「どうしたらいいんですか?」と。
けれど、先生はただほくそ笑むだけで、答えてくれなかったのであーる。