たったいま検査入院からの帰還でござる。
 不肖闇生、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いありとみて、診察をうけていた。
 読んで字のごとく就寝中に呼吸機関がフリーズをかますという、そんなけったいな病気のことだ。
 なんせ無酸素状態。
 体によいわけがない。
 放置すれば後々血圧や血管などをよりどころとする様々な合併症を呼び寄せるというのだから、厄介このうえなしなのであーる。
 ほら、脳梗塞とか、
 心筋梗塞とかさ。
 だいたい尋常じゃない早さの動悸で目覚めることが多々あるのだ。
 それはそれはVAN HALENのホット・フォー・ティーチャーのイントロなみのドラムソロなものだから、このまま放置していたらそのうちエディがやんちゃに弾き始めるに違いない。
 うんにゃ、弾くね。
 スクラッチからライトハンドになだれこむに違いないのだ。
 となれば、少なくとも寝ているすきに何かが起きてはいることは確かだろう。
 高校時代から「いびきが止まってこわい」と言われてたし。


 初診のあと、まずは簡易式の検査キットを持ち帰り、自宅でひとりさびしく夢うつつの酸欠状態を機械に記録させたあとは、その、無酸素男のあられもないひとり寝データを赤裸々に解析してもらって、こりゃあ富士山頂をはるかに超える無酸素具合だわいと感嘆され、慄かれ、なるほどそれがゆえに集中力がなく勉強ができなかったのかと心ひそかに八つ当たりするあたしをよそに、それじゃあ本格的に診てしんぜようかとほくそ笑むいしいひさいち似の先生。その胸を借りる形で、ならばちょいと診てもらいやしょうかと。
 そんなこんなのパンナコッタ。
 検査入院でうら若き看護婦さんに監視カメラ越しに頑見してもらうことになった次第であーる、と。


 午後七時に予約。
 それまでに食事はすませなくてはならないので、その辺からして、日頃のリズムからそれる。
 受付を済ませてまずはシャワー。
 かたじけないものを、かたじけなく、洗った。






 うん、
 洗った。


 リンスインシャンプーとボディソープ。
 それから歯ブラシの類。大小のタオル、パジャマは用意されてあるので、こちらは下着だけ持っていけばよい。
 で着替えて、髪を乾かしたら、ナースコールだ。
 ボタンひとつですぐ駆けつける素敵なヒトだ。
 そんな素敵に四十分ほどかけて体中に電極をセットしてもらうのだ。
 脳波、
 眼球の動き、
 顎の筋肉、
 鼻と口の呼吸、
 いびきの音、
 体位(寝ぞう)、
 心電図、
 動脈血酸素飽和度など、それらを感知するセンサーを丁寧に装着してもらう。
 もうね、
 メデューサ状態だわ。
 それを終えたのが八時半くらいだろうか。
 室内にはテレビもあるので十時ぐらいまでだらだらしていて構わないという。
 だが、ベッドに仰臥した状態で電極のセットを完了したものだから、そう動けるはずもなく。
 そこへきて八時間はデータをとりたいとのことで、観念して目を閉じた。
 夜の八時半なんつったら日常ではがっつりと勤務中である。
 でもって起床が六時半だといふ。
 あたしゃ普段、多くても六時間程度の睡眠だ。
 起きる時間だけは普段に近いんだものなあ。
 まあ、わかってはいたので昼間のうちにみっちりとウォーキングをしておいたのがよかった。
 案外にあっさり夢の中へと。


 安らかに。

 
 尿意を感じて目覚めると、ちょうど看護婦さんが入ってきた。
 はしたない寝ぞうのせいで鎖骨の電極がはずれたのだそうな。
 端末を切り離し、コードの束を手提げバッグにいれて、静まり返った廊下をそろりそろりとトイレへ向かう。
 昼間飲んだコーヒーやそばつゆのなれの果てをじょぼじょぼと放流しつつ、思う。
 いびきをとるセンサーは寝言も記録するのかと。
「すいません。『婆・冥土カフェ』は、あいにく現在廃盤ですので」
 だなんて、そんな仕事モードのつぶやきをしてしまったら、どうすんだと。
 いや、そんなことは、いい。
 なんか国家機密的な仕事をしているひとが、なんかパスワード的なものを、寝ながらつぶやいてしまったらどうすんだと。
 それも、どうだっていい。
 だいたい寝ぼけていて発想が貧しいぞ。
 いやそれより、思い返せば入院パンフレットの注意書き。
 電極センサーのとりつけのため、ヒゲ、化粧、かつらはお取りくださいますようとあった。
 問題は、かつらだ。
 装着して来院した場合、受付を終えてからソレを外し、シャワーを浴びて電極を付けると。
 で、
 翌朝は逆に、電極を外したら、
 パイルダー・オン
 ソレを付けて出ていくと。
 別にいいが、なんだか、大変な神経戦ではないか。
 当人はもとより、殊に看護婦さんにとって、シリアス感がただならない。


 なんてことを心配しつつじょぼじょぼを終了したもんだから、目がさえちまっていけない。
 時計を見ると、零時半。
 嗚呼、いつもならまだ起きているぞ。
 眠れない、眠れない。
 かててくわえて、腹が減った。
 神田うのが「腹減ったあ」と言ってY字バランスで立つCMを思い出す。簡易栄養食『バランスアップ』だ。
 寝返りはご自由にということだが、そんなわけにもいかない。
 なんだかマジンガーZのテーマが、
 とりわけあのイントロの猛々しいブラスアレンジがループしていて、それにつづくティンパニがユーモラスなまでに勇壮で、たまんない。
 寝てられっかと。


 とまあ、なんだかんだ鼻かんだ。
 朝までにはまた眠ったようで。
 シャワーをあびて電極セットのためにつけたクリームを洗い落として、七時半には病院を出た。
 そう、会社帰りに入院して、そのまま翌朝出社できるよう配慮されてあるのであーる。
 けど、あたしゃオフ日だもんね。
 そんな時間に街なかに追い出されても、行くところがないんだもんね。
 といって、このインフルエンザ・ブームではね。
 うろうろしてそれを背負い込んでしまっては、勤務先に申し訳が立たないぞと。
 すごすごと帰還したというわけ。


 でもね、
 八時間もベッドの上にいたので、体ががちがち。
 くわえてなんといおうかmust的に眠ったので、疲れたよ。



 さて、
 今回のデータの解析に二週間が要るという。
 結果は、出てのおたのしみ。








 ☾☀闇生☆☽


 今後の選択肢としては、
 耳鼻咽喉科でのどちんこあたりを切除して、気道を確保する。
 睡眠時に専用の呼吸器を装着するようにする。
 マウスピースをあつらえて、下顎を「あいーん」にして、気道を確保する。
 そんなとこらしい。


 余談だが、
 勤務先の自治体でごみの出し方が変更になったとき、ご丁寧にごみの仕分け方を示したイラスト付きのパンフレットが配布された。
 おたまや、しゃもじ、ビデオテープや電卓は、不燃か可燃か資源ごみかを、ひとつひとつイラストで説明した豪華な『本』である。
 あれのためにどれほどの税金が使われたのかしらないが、同僚とながめつつ、失笑したものである。
 そこには『かつら』はどう分別されるのかまで、表わされていて。
 そこまでやるならばTENGAやヌーブラについても示すべきだろうに。


 追伸。
 マジンガー、というよりオジンガーのほうだな。


 三伸。
 念のため検索したら『婆冥土カフェ』って、無修正でも出回っているのね。
 うちであつかってたのは、当然、修正済のです。